轟音が響いたことにより目を覚ました。人がいて安心したのか随分と爆睡していたようだ。ガラガラと何かが崩れる音がする背後。そっと振り向くと壁には大きく穴が開いていた。いったいどうして、寝起きの頭は働かず、自分の足元に雲雀さんがいないことにも気づかなかった。
「自分で出られたけど、まあいいや」
立ち上がる彼を見て、ようやく意識が覚醒してくる。壁の奥には倒れた獄寺くんと、あの千種と犬。話をしてくれなかった人と話の通じなかった人だ。もしかしなくともこれは、獄寺君が助けてくれたってことか。でも当の本人は倒れているし、どうやら傷だらけのようだった。
「××?なんでお前もここに……」
「獄寺くん大丈夫っ?!助けに来てくれたんだね、ありがとう」
「ま、まあな……」
彼のもとへ駆け寄るとびっくりした様子で私を見つめていた。雲雀さんがいたのは知っていたらしい。頭上を飛んでいる鳥、あの子が口ずさんでいるのは並中の校歌だった。なるほど、あの鳥が歌えているのはおそらく雲雀さんの携帯電話の着信音のおかげだろう。それでここにいると踏んだのか、さすが獄寺くんだな……。
「雲雀さん、怪我は大丈夫なんですか?」
「平気だよ、なんともないって言ったでしょ」
それはそうだけど、明らかに今から戦いそうな雰囲気をしているのにあんなにボロボロで……心配しないほうが無理でしょう。相手二人も臨戦態勢に入り、犬のほうが先に雲雀さんに飛びついた。それを難なくいなして窓の向こうへ蹴飛ばした後、簡単そうに千種を翻弄している。すごいな、雲雀さんが怖い人って思われるのも納得する強さだった。
「悔しいけど、あいつがいてよかったぜ」
「私たちからすれば獄寺くんが気づいてくれて助かったよ。……もしかして一人で来たの?」
「いや、十代目たちも一緒だ。十代目とリボーンさん、あと姉貴は先に六道骸のところに行ったが、他は……」
彼は目を伏せてそう言った。このメンバーに山本君がいないとは考えられない、もしかしてもう……いや、マイナスな思考は捨てないと、助かってると思わなければ。今はただ、目の前で暴れている雲雀さんを見守るしかできなかった。こうしてみると、私って本当に無力なんだな、と実感させられる。私も何かでみんなの役に立てる日は来るのだろうか。
「そういえばこれ、貰ってきたんだ。ヒバリに飲むように言ってくれねぇか」
「処方……?痛み止めか何か?」
「まあそんなとこだな……サクラクラ病の処方薬だ。お前から言った方が素直に聞くだろ」
サクラ……?初めて聞く病名に疑問符を浮かべるばかりだが、獄寺くんに差し出された白い紙袋を受け取って中身を取り出した。この錠剤を雲雀さんに飲んでもらえばいいらしい。
暴れ切った雲雀さんにより無事二人を片付けられたようだ。ふらっと倒れそうになる彼を見てつい駆け出し、肩を貸したけれどやっぱり少し重い……と思っていると、反対側から獄寺君が雲雀さんを支えてくれた。支えられた側はプライドからかいろいろと文句を言ってるけど気にしない、これで沢田くんたちと合流できそうだ。
雲雀さんに例の薬を飲んでもらってから獄寺君の案内に従い、ボロボロな道を進みながら総大将の元へ向かう。あの部屋にずっと閉じ込められていたから知らなかったが、本当に廃墟のような場所だった。階段は登る度にガタガタと震え、床は踏む度に軋み、時折鉄柱が落ちてくる。恐ろしい……。歩みを進めると、3階のとある部屋から物音が聞こえた。扉が無防備に開いているし、あそこに彼らがいるのは間違いないだろう。
急いでそこへ向かい中を覗くと、倒れている女性と少年、蛇に囲まれる沢田くんと見守るリボーンくん、そしてその奥に、オッドアイの彼がいた。このままでは沢田くんが危ないと私が1歩踏み込むより先に隣の2人は既に行動を終えていたようで、雲雀さんは例の男にトンファーを投げつけ、獄寺くんは沢田くんの周辺にいる蛇を散らそうとダイナマイトを複数個放った。
「10代目!伏せてください!」
「っえ!?うわっ……!」
雲雀さんのトンファーは弾かれてしまったが、獄寺くんのボムで沢田くんを助ける事には成功したようだ。私たちに気づいた沢田くんが目を輝かせ、震える声で私たちの名前を呼んでいる。
「雲雀さん!獄寺くんに……××まで!無事で良かった……」
「沢田くん……心配かけちゃってたらごめんね、私は本当に何も無いから大丈夫なんだけど」
「借りは返したよ」
私は大丈夫だけど他の2人は負傷していると伝えようとしたが、途中で雲雀さんが一言放ち獄寺くんの肩を離してぽいと落としてしまった。2人とも怪我してるのになんて事を!
「おや、貴女まで来てしまったのですか。言ったでしょう、マフィアなどとは縁を切るべきだと」
「っ、貴方がみんなにこんな事したの?」
「えぇ。そういえば自己紹介をしていませんでしたね、僕は六道骸、貴女なら気軽に呼んでいただいて構いませんよ」
今更自己紹介をされた所で、ここから気軽に呼べる仲になるなどありえないでしょう。悠長に話している私と六道骸の間に割って入るように雲雀さんが立ち、弾かれたトンファーを拾ってフラフラと立ち上がる。いつの間にか私の肩を離していたようだ。
「覚悟はいいかい?」
「怖いですねぇ、だが今は僕とボンゴレの邪魔をしないでください」
そのまま六道骸が続けた言葉は、私にとっては衝撃が強すぎた。雲雀さんの怪我は外傷だけではなく、内部の骨まで折れているらしい。そんな状態でさっきまで動いて階段を昇って、ここまで……。改めて雲雀さんの頑固さに畏怖しながら、武器を混じえる2人を眺め続けた。あまりのスピードに目が追いつかず瞬きを繰り返してしまう。
実力は互角かと思ったが、何の前触れもなく雲雀さんが膝をついた。やっぱり先程言っていた骨だのなんだのが響いたのだろうか。六道骸がなにか意味のありそうな事を言った後、天井に季節外れの桜が現れる。どうして急に、なんでサクラ……?
桜が舞う美しい光景の中、ついに雲雀さんは脱力してふらりと倒れ込んだ――と思った瞬間。
「……おや?」
雲雀さんのそれは倒れ込んだフリだったようで、流れるまま右手を振りトンファーを相手の腹部へ命中させた。六道骸は表情こそ余裕そうではあるものの、口角から血が垂れている。
「へへ……甘かったな、シャマルからサクラクラ病の処方箋を預かってきたんだ、桜はもう効かねぇよ」
さっき聞いた病名だ、雲雀さんはそれに罹患していたらしい。最初に怪我をさせられたのもその病気が原因かもしれない。つまり病を克服した今なら!
そう期待を込めて雲雀さんを見つめる。驚きからか動かずにいる六道骸に両腕のトンファーを振り上げて遠くまで飛ばした。派手に血を吐いて倒れ込んだ六道骸を見て安堵のため息が漏れる。すると何故か天井を埋めていた桜も消え、部屋に一瞬の静寂が広がった。
「ついにやったな」
「終わったんだ……これで家に帰れるんだ!」
リボーンくんと沢田くんの喜びに共感しながら雲雀さんの元へ駆け寄り、ふらっと身体を崩した彼をなんとか受け止めた。流石に重いためこのまま運ぶことはできず、一旦安静にするような体勢で床に寝かせておく。
「雲雀さん、病院に連れていかないと……」
「それなら心配ねーぞ、今ボンゴレの医療チームがこっちにむかってる」
「その医療チームは不要ですよ」
嫌な声が聞こえて振り返ると、先程まで倒れていたはずの六道骸が半身を起こし銃口をこちらに向けていた。庇うように前に出た獄寺くんが凄むのも気にせず、六道骸は不気味に笑い続けている。
「クフフフ……」
「な、何をする気……?」
標的はこちらら外れたようで、骸は自らの頭部へ銃を持っていき、その銃口をこめかみにつけて――
「Arrivederci」
ズガン、と激しく雷鳴にも似たような音が響き、骸は再度倒れ込んだ。
「っ!!」
その光景を見た瞬間、頭にあの日のことが浮かぶ。床一面に広がる鉄臭く鈍い赤色、母が手にした包丁を父の身体に差し込んだあの日、全てを失ったあの日の事が頭からはなれずに――
「い、おい、××!大丈夫か!?」
獄寺くんの心配してくれる声すら聞こえないまま、意識を手放した。