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※リボーン視点※

 骸が自分に撃ったのは特殊弾であり、過去に禁断として製法すら闇に葬られたほどの劇物だった。それにより獄寺まで戦闘不能となって危機的な状況だったが、レオンが吐き出した武器である小言弾と手袋を、死ぬ気の炎を扱うためのグローブに替え内なる力を引き出したツナが、骸との一騎打ちの末勝利を収めようとしていた。
 両手に宿した死ぬ気の炎の力で骸の邪悪なオーラを浄化させ、気力も闘志も失った骸は床に倒れ込み、壁に突き刺さった剣は粉々に砕け散り、あれに切られツナが乗っ取られる事は今のところ無くなったようだ。

 だが不思議な点がある、この場にいる人間の中で、骸が唯一憑依しなかった人間がいる。骸が自らを撃った光景にショックを受け気を失った〇〇××という存在だ。

「お前、なんで××には憑依しなかったんだ」
「彼女には……マフィアなどには、関わってほしくないのです。貴方も知っているでしょう、彼女の両親について」
「××の親……?」

 何も知らないツナと違い、骸はあいつの両親を知っているらしい。××はマフィア界の重鎮であった父親とその保護を依頼されて結婚した殺し屋である母親の一人娘であり、この世に誕生した時点でマフィアとは切り離せない縁がある。しかし何故こいつが知っているのかが問題だ。あの母親はこちらの世界に気付かないよう娘に自分の正体を隠し、知人のうちでも極少数しか娘の存在は知らない。自分の弱点を晒して狙われるのを避けていたのだ。父親に関しては結婚して数年後から一切姿を見せなくなり、誰も触れてはいけないと話題にあがることもなかった。

「彼女の母は、私の恩人ですから」

 それだけ言い残して骸は目を閉じた。心配して駆け寄るツナを静止する犬の声が鋭く響き、場の空気を一気に冷たくする。

「マフィアが骸さんにさわんな!」
「な……なんで?何でそこまで骸のために?君たちは利用されてたんだぞ」
「わかった風な口を聞くな……」

 牽制を続ける犬と千種が、骸への忠誠心と××との関わりのきっかけを話し始めた。


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 エストラーネオファミリー、昔から良い話を聞くような組織ではなかった。骸の使っていた禁弾とされる憑依弾を作ったマフィアであり、悪評が広まった事で迫害を受けたメンバーは、ファミリー全体は栄光を取り戻すためという理由で人間の子供を使った悪質な人体実験を繰り返し兵器を生み出そうとしていた。

 3人はみなそのファミリーにモルモットにされており、凄惨な毎日をギリギリの命を繋ぎ過ごしていた。その現状をたったひとりでぶち壊したのが六道骸だったのだ。

 血塗れの実験室に転がる死体の山、その中心に佇む少年が眼帯を外し、犬と千種に手を差し伸べた。


 そして逃げ出した3人ではあったが、実力のある骸がいるとはいえ彼らは幼い子供だった。金を稼ぐ方法は違法な物しかなく、3人分の生活に必要な額を得るのは難しい。大金を得られる仕事は大抵がマフィアに関係しており、そういった物は嫌悪して避けていたのも要因だ。よってしばらく街行く人々から食料品を掠め取ったりなんとか路地裏で生活していた。その中で運悪く、例の母親である女にあたったのだった。

 夕日が沈みかけているにも関わらず賑わっている市場の八百屋で、紙袋に入った大量の食品がテーブルに置かれていた。その主である女は店員と話し込んでおり視線が外れている、このチャンスを逃さないよう、犬は素早くそれを盗み、視線だけを後ろに向け誰も追いかけてきていないことを確認し、おつりがくるほどの食べ物を手に入れたことを喜びながら狭い路地への角を曲がって2人の待つ路地裏へ逃走する。

「おや、随分大量に持ってきましたね」
「ノロマな女がいて助かったびょん!!これだけあれば明日の朝も――」
「だ〜れがノロマな女だって?」
「へ」

 ぴょんぴょん飛び跳ねながら大漁の戦利品を見せびらかす犬の背後に、恐ろしいほど大きな影ができる。女の声に震えながら振り返ると、両手を腰にあて仁王立ちし、子供たちを見下ろす鋭い視線。肩を跳ねさせる犬を守るように前に出た骸と千種を見て、女は深いため息をついた。

「はあ〜あ、とりあえずそれは返してもらうよ、代わりにこれあげる」

 一瞬で犬の手から紙袋を奪い取り、その手に大きな巾着を置く。ずっしりと手首に刺激を感じるほど重みがあり、少し揺らすと中でじゃらじゃらと金属音が鳴る。子供たち3人はその正体に感づき目を輝かせた。

「私明日には向こうに帰るし、換金手間で邪魔なのよね」
「なぜ僕たちにそこまで?」
「あんた達くらいの可愛い娘が日本で待ってるの。こんな風に寂しそうなのかなと思って……」

 女は優し気な視線を子供たちに向けた。親などという存在はとうの昔にいなかったことにした三人は、その同情ともいえる温もりに救われたのだ。例え彼女の中で娘と重なったからだとしても、たった一瞬こうした優しさが与えられたことは、今まで道具を見るような冷たい目しか向けられてこなかった子供にとってかけがえのないものとなる。

「貴女の……名前は?」
「知らない方がいいよ、通りすがりに財布を落としたうっかり屋のお母さんとでも覚えといて」

 骸の問いに答えず、彼女は手首をぷらぷらと振りながら路地裏を後にした。小さくなっていくその背を、三人はひたすら見つめて次の目的を決めたのだ。

「犬、千種、あの人の事を調べましょう」
「そうですね……」
「わかったびょん、でもまずその前に……!」

 犬は自分の環境をぶち壊し救いの手を差し伸べてくれた神様ともいえる六道骸にその重い巾着を差し出した。受け取って中身を見ると、想像していた硬貨だけではなく紙幣も大量に入っている。これだけあれば数か月は満足いくまで食べられるだろう。むしろ情報を買う金にすらなる――

「クフフ、まずは腹ごしらえといきましょうか」



 そして六道骸は彼女の影を追う途中とあるファミリーに拾われ、その生活の中でいくつか有力な情報を得た。彼女が裏の世界で大活躍する殺し屋であること、今は日本を拠点にしていること、稀にマフィアの依頼によりイタリアに帰国していること。それだけ分かれば十分だった、後はその忌まわしき力でファミリーで最も強い男を操り、計画通りに事を進めるだけ。この件で収容された刑務所を抜け出し、日本へ渡りボンゴレを手中に収め、腐ったマフィアの世界を塗り替える――そしていつか、自分たちを救ってくれた彼女とその家族が平穏に暮らせればという野望を抱いて。

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「……そんな事考えてたのか。それで××にはその刃を向けなかったんだな」
「骸様は、わかっていた……この中で彼女が一番強いと」
「本質だけ言えばそうだろうな。だがまだ経験不足で闘ったりはできねえぞ」
「それでいいんら、俺たちはそいつに会ってあの人の事を聞きたかっただけ――だからこそ、俺たちの大事なもん、おめーらに壊されてたまっかよ!」

 犬の言葉に反応したツナが、ぐっと拳を強く握りしめたのが見えた。彼らの大事なものも、こっちの大事なものも、お互いがボロボロになったこの戦いだからこそツナも他の皆も成長した。それでもこの、ボンゴレ10代目に最もふさわしい男はそれを良い事だと捉えることはない。

「でも……オレだって、仲間が傷つくのを黙って見ていられない。そこがオレの居場所だから」

 ツナの台詞に言葉を失った2人は、悔しそうに口を歪ませツナを睨みつけていた。

 その時たった一つの入り口が少々動き、呼んでいた医療班がこちらにも到着したと思ったのだが、やけに空気が冷たく人の温もりを感じない。まさかと思い扉の方へ視線を向けると、そこにいたのは黒く大きな影だった。それらから伸びたチェーン付きの首輪が六道骸と犬、千種の首に無遠慮に掛かり、三人を引き摺っていく。

「早ぇお出ましだな」
「っな、おい、医療班じゃないのかよ!一体誰なんだよ!」
「復讐者……マフィア界の掟の番人で、法で裁けない奴らを裁くんだ」

 抵抗もできずに連れて行かれるだけの3人を心配してツナが抗議するのを阻止し、ただその光景を見つめた。相手にすると厄介な存在であり、今のツナがどうこうできる訳もない。

「あの3人どうなっちゃうの?」
「罪を裁かれ罰を受けるだろうな」
「ば、罰って……?」
「さーな、だが軽くはねーぞ」

 脳裏に浮かぶアイツの姿に眉をひそめた。××が必死になって探している奴、骸が探していたその母親が今何処にいるのか知っているのは極小数、片手で数えられる程度でありその中にオレも含まれている。

「オレ達の世界は甘くねーからな」

 旦那を手に掛けた事を大罪として復讐者に連れていかれたその"母親"も、きっと罰を受けているだろう。