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 並盛という土地は非常に恵まれている。医療施設も整っており、交通も便利で人が歩くために道も整備されている。その地域病院である並盛中央病院に、先日の六道骸の件で大怪我を負った雲雀さんが入院しているため毎日お見舞いに行っている。本人は痛そうにする素振りも無ければ睡眠を邪魔しに来るお客さんと遊んだりといたって健康そうに見えるため勘違いしてしまいそうになるが、彼は人体において重要な骨を何本か折っていたのだ。
 その原因が私にもあることの負い目もあり、毎日お弁当を作って持っていくことになっている。病院食のがいいんじゃないですか、と疑問を口にしたところ「あれは美味しくない」と一蹴された。

「怪我の具合はどうですか?」
「なんともない、もう治ってるけど医者がうるさくてね」
「もとは酷い怪我でしたから、ちゃんと安静にしてください」

 病室に置かれた花瓶の水を換えてから、食事用の可動式テーブルに彼のために作ったお弁当を並べる。いつもであれば栄養の偏りを気にするが、申し訳なさが勝り気づけば彼の好きな食材ばかり使っていた。

「はいどうぞ、いっぱい食べてくださいね」
「ん」

 食べる準備はできたのに、なぜか雲雀さんは上体を起こしたまま目を閉じる。まだ眠いのかとお弁当を一旦片付けようとしたが、視界を閉ざしたままだというのに私の動きが分かるのか、手首をパシッと掴まれて鋭い声で反抗された。

「何してるの?待ってるんだけど」
「眠いのかと……ご飯食べます?」
「うん、待ってるって言ったでしょ」

 主語がわからず首を傾げるだけの私に呆れたため息をつき、雲雀さんはテーブルにあった箸を私の手に収めた。ああ、食べさせろという事ですか!可愛いところもあるものだと頬が緩み、持たせられたお箸でおかずを一口サイズに切り分けてその一欠けらを持ち上げる。

「はい、お口開けてください」

 落とした時に汚さないよう左手を添えながら、ゆっくり彼の口元へ持っていけば完璧なタイミングでほんの少し口が開かれる。近付くほどに緊張していくがこの感情に知らないふりをして、そこへ食べ物を放り込んだ。こうしてまじまじと顔を見る機会なんてなかったから今更にも感じるけど、雲雀さん結構睫毛長いんだな……鼻筋も通っていて、唇もきれいな形で……。

「ふふっ、美味しいですか?」
「ん……なに笑ってるの」
「昔こうやってお人形さんにご飯をあげていたのを思い出しちゃって、あはは」

 お人形のように端正な顔立ちだと考えていたら、まだ両親が健在で外を知らない頃にこうした遊びをして怒られたのを思い出した。雲雀さんの体格は明らかにお人形なんかより何十倍も大きいのに、重なってしまったのが面白くて肩が震える。次に白米をひとくち分箸で取ったが、なかなか笑いが収まらず手先まで震えてしまう始末。彼の口へ運ぶ途中、ついに箸の先から落ちて添えていた左手に乗ってしまった。一度私の手についたものを食べてもらうわけにもいかず、軽く謝罪しながら左手についた物をゴミ箱へ捨てようとしたのだが。

「ごめんなさ、えっ?」

 その左手は雲雀さんに掴まれて彼の口元に近づいて――容赦なく、ぱくりと食べられた。掌に乗っていたご飯を。

「っな、なな、品がないですよ!」
「落とした君が悪い。君に渡している昼食用の費用は並中の予算から出してるから」
「そうだったんですか!?いつもたくさん貰えるから雲雀さんのポケットマネーかと……」

 焦ってそう言いながら手を引っ込めたが、手のひらに残る温い感触がじわじわと思考を染めていく。急激に熱を帯びる耳を手の甲で冷やし、まだまだ残っているご飯を全部食べさせるべく気合いをいれた。



「ああそういえば、携帯拾ってくれてありがとうございました。雲雀さんに貰った大切な物なので落としてショックだったんです」
「そう、出欠の連絡くらいでしか使わないのに」
「それでも……私にとっては、宝物ですから」

 誰かと繋がっている事実は、私に安寧をもたらすのだ。ひとりが好きな雲雀さんとは違い、私はひとりに慣れすぎちゃっただけだから。


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 数日後、病院生活に飽きた雲雀さんは医者を脅して退院の許可を貰い、いつもの日常に戻ってきた。
 
 彼が退院してから数週間後、久しぶりにすら感じる並盛中の屋上で涼しい風に吹かれながら、雲雀さんの隣に座って縫い終わったぬいぐるみのガワにつぶわたを詰めていく。誰も何も喋らない静かな空間のはずが、あの時校歌を歌っていた可愛い黄色の小鳥がぴよぴよと鳴きながら雲雀さんの周りを飛び回るので賑やかに感じてしまう。何も言わず受け入れている辺り、どうやら雲雀さんにもペットを可愛がるという素敵な一面があったようだ。

「雲雀さん、今日は野球部がどこかで試合をしているそうですよ。さっき草壁さんに聞きました」
「へぇ」
「並盛が勝つといいですねぇ」

 頭に浮かぶのはすっかり元気になった山本くんが元気にバットを振る姿だ。彼がいるうちの野球部が負ける所はあまり想像できない。
 あまりこの話題には興味が無かったのか、雲雀さんは大きな欠伸をして瞼を閉じ、静かに寝息を立て始めた。日光の陽気にあてられて眠くなったのだろう、私も少し眠たいような気がする。
 平和な並盛が戻ってきたことに安堵し、私も小さく欠伸をしてから綿詰め作業に意識を戻した。