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 いつも通り家を出て、いつも通り学校に向かう。もう一年以上この生活を続け慣れ親しんだ玄関が、今日はやけに寒い気がした。冬が近づいてきているから余計だろうと上着を羽織って扉を開けると、誰かに思いっきりぶつけてしまった。

「えっ?」
「うおっと……随分急いでるな、遅刻か?」
「だ、誰ですか!?」

 そこにはヘルメットを被りツルハシを持ったおじさんがいて、思わず後ずさる。あんなことがあった後で警戒しないなんて無理に決まっている。

「そうか、俺の事話してなかったか。お前の母親の知人、沢田家光だ」
「お母、さんの……?」

 思わず声が震えてしまった。この十数年、母の知り合いなんて……リボーンくんしか会ったことない。そして沢田という苗字……偶然とは思えなかった。



 学校は諦め、雲雀さんに用事ができて休む旨のメールを入れた。以前体調不良で無断欠席をした際、雲雀さんから鬼電を食らった苦い思い出があるからだ。沢田さんをリビングに案内し、念のためお茶を出して正面に座る。今更母の知人が何の用でここにくるというのだろう。

「悪いな、もてなししてもらって」
「いえ、大事なお客さんですから……それで、何の御用で?」
「これを届けにきたんだ」

 そういって彼が差し出したのは、布に包まれた何か。受け取って恐る恐るその柔らかい絹布をはがすとシルバーリングが現れた。こ、これは、大人が子供に渡すものではないのでは?付き合ってもいない人に渡すのはおかしくないか?それに……デザインも、なんか、かっこいいけど普段使いするにはゴテゴテしている。

「わ、私まだ結婚とかできないです」
「は……??ああいやそういうやつじゃない!!刻印をよく見てみてくれ……!!」

 焦ったように手を振りながら指輪を指し示す彼の言葉にそって表面のデザインをじっくり見る。上が欠けて半分になったように見えるが、表面には雪の結晶と貝のマークが彫られているようだった。直近の出来事から連想させられるのはボンゴレ……六道骸の件で嫌というほど聞かされたマフィアの名だ。以前リボーンくんに言われた事と繋がり、なんとなくこの意図が読めてきた。つまり彼は私にこれを渡して、正式にボンゴレに入ってほしいとか……そういうこと?

「リボーンからお前の事は聞いている、そしてお前の母親からも」
「それは、どういう」
「そのリングを手にするのに相応しい、この世で二人目の雪の守護者だと」
「ええと、ちょっとよく分からないんですが……」
「まあそうだな、お茶を飲みながらゆっくり説明するよ」

 その説明を聞いている時、私の頭の中はぼんやりと状況を思い浮かべるので精一杯だった。ボンゴレってそんな凄い組織だったんだ、守護者とかあるんだ、私がそれに選ばれるんだ……。
 一つ一つ嚙み砕いてようやく辿り着いた答えを自分に言い聞かせる。私以外にこれを持つべき人はいないらしい、と。それと同時に複数の不安が押し寄せる、私にそれが務まるのかどうか、本当は私よりふさわしい人がいるのではないか。

「……すみません、ちょっとすぐには答えが出せなくて」
「無理もない。でも時間がないのも事実なんだ。先日沢田綱吉達にちょっとした揉め事があったこと件は知っているか?」
「いえ、沢田くんたちに何かあったんですか?」

 どうやらこのリングを追いかけている悪い連中?に追われていた青年を助けるため、沢田くんたちが応戦したらしい。助っ人のおかげで窮地は抜けたが、次はこのリングを求めて戦争になってしまいそう……と。余計に不安を掻き立てるだけの話だったが、改めて自分の中で決意が固まった。そもそも私がボンゴレに関わっている理由はひとつだった、これだけは揺らぐことはない。

「そのリング争奪戦に勝てば、私は母に会えますか?」
「絶対会える……とは言えないが、近づけるだろう」
「ならやります、元々リボーンくんの誘いに応じたのもこれが理由だし」
「なるほど、それが目的であり、強くなりたい理由か」
「……もう誰も、失いたくないので」

 脳裏によぎるあの光景、血の海で佇む母と倒れる父、母の持つ包丁に滴る赤、その母に首枷をかけてつれていった黒い影。あの日から一度も、母に会いたいという願いを忘れたことはなかった。

 それに、雲雀さんや獄寺くんに守られるだけだった弱い自分とはおさらばして、せめて自分の身くらい自分で守りたいと思っていたところだ。

「でも私、お裁縫くらいしかできなくて。戦ったりとかはちょっと」
「安心しろ。俺がお前のカテキョーとして立派に育ててやる」
「はい、お手柔らかにお願いします……!」


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 案内されたのはあまり使ったことのない自宅の地下蔵の、さらに奥深くにある鍵のかかった扉の中だった。彼は針金を鍵穴に差していとも簡単に解錠し、少し冷たく感じる暗室を進む。そこには大量の的やサンドバッグ、武器とも言える銃や剣など、恐ろしい光景が広がっていた。

「こんなに銃刀法違反を……」
「っはは、確かにな。アイツのことだからここらの武器は使わないだろうし、ただの戦利品だろうが、的は使い込んだ跡がある」

 家光さんは少し辺りを物色した後、傷一つない人型の的があることに気づいてそれを持ち出した。

「武器は何がいい?ここにあるものでも、手になじみのあるものでも構わない」

 馴染みのあるものといえば裁縫道具くらいだ。手先は器用な自信があるが、ここにある武器を持って戦えるほど腕力もない。かといってこんな小さな針に、戦う力があるんだろうか。胸ポケットからソーイングセットを取り出してしばらく眺めてみた。

「……これに、できるでしょうか」
「裁縫道具……アリだな。ただ、銃や刃物と違い攻撃の範囲が狭くリーチも短い。自分が苦しくなるかもしれないぞ」
「できるならこれがいいです、あんまり仰々しい物はちょっと」
「なら決まりだ。その中で使えそうなのは針と糸と……鋏か?」
「あとはリッパーとか、これくらいですかね」

 掌に収まるほど小さな道具たち。人を傷つけるために使うのは申し訳ないが、人を守るためでもある以上、これらには諦めてもらうしかない。針を一本取りだして、親指と人差し指で掴む。言い出したのは私だけど、これでどうにかできるのか?

「人間にはスポットってもんがある、いわゆる急所だな。人体を理解しそこ目がけて針をさせれば強いが……試しにこの的に、弱点だと思うところ目がけて針を投げてみろ」
「うーん当てられるかなあ、外したら危ないので、家光さんは私の後ろにいてください」

 彼が退いたことを確認し、ダーツの要領で心臓っぽい部分目掛けて針を投げた。非常に軽いひゅんっという音の後、中央から少しだけ左寄りの胸に突き刺さった針を見て思わず頬が緩む。思い通りの場所に投げられた、ちょっと楽しいかも!現時点では相手が生身の人間ではないから、余計にゲームのように思えた。
 振り返って家光さんの様子を見てみたが、手を顎に当て長考しているようだ。どこか悪いところがあっただろうか……速度?狙い?

「あのー……家光さん?」
「ああ悪い。狙いもコントロールも完璧だ、教わったのか?」
「ダーツは昔母とやっていたことがありますが針投げはさすがに」

 母に連れられた酒場で、持ち上げてもらってダーツで遊んだ記憶はあるがあんまり上手だったわけではない。やらない間に成長していたようだ、今なら真ん中のスコアも狙って、ダーツ大会で優勝できそう。

「まだ針はあるか?いったん好きなように狙ってみろ」
「手持ちのソーイングセットには針一つしか……上からたくさん取ってきますね」