3.小鳥に伝言(ラース・A)
3.小鳥に伝言
(※暗、血、死ネタ注意!)
あの人に伝えて━━━━。
灰白色の空から落ちてくる真っ白な雪を見上げていた。
大木に背中を預け座っているナーナの周囲には、夥しいほどの赤が拡がっている。
身体が重い。
血液が大量に流れ出ているのだから身体は軽くなるのでは?
馬鹿な考えにナーナはひとり笑った。
ふと視線を動かすとすぐ側、ロシア軍の軍服に身を包んだ男が転がっている。既に息は止まっていた。
鉄拳衆特殊部隊のラース隊に所属するナーナは頭首からの特命による工作活動を、ここロシア北西部で行っていた。
この地を守るのは、白い死神の異名を持つドラグノフ率いるロシア軍特殊部隊。
数において圧倒的に不利な状態であったが、ラースと彼の部下らの巧みな連携で制圧する事が出来たのだ。
ナーナはロシア軍特殊部隊長ドラグノフと対峙した。彼を誘き寄せた一対一の闘い。
実力はほぼ互角。互いに譲らない激しい闘い
が続いた。
そんな中見せたドラグノフの一瞬の隙を見逃がすはずはなく、ナーナは手にしていた軍用ナイフをドラグノフの心臓に突き刺した。
だがそれと同時に、ドラグノフが繰り出した瀕死の一撃がナーナの腹部を貫いていた。
「ミスったなあ……」
ドラグノフの屍から視線を空に戻すと、ナーナの頭上には、二羽の小鳥が飛び回っていた。
「……楽しそう、ね……」
腹部からの出血が止まらない。
鉛のように重い身体は次第に考える事すら億劫になってくる。
もう長くない事は分かっていた。
フゥと大きく息を吐く。
(隊長……約束を守れまそうに、ありま……せん。今までありが、とう……ございま、した……)
「ラース隊、長あなたが……好き、でした……」
空を自由に飛び回っているあなたたちへお願いします。彼にどうか伝えて下さい━━━━。
急激な眠気が襲ってくる。血液を大量に失っているため体温が低くなっているからだ。
ナーナはゆっくりと瞼を閉じた。
━━━━ナーナ!!、ナーナ!!?
誰かが名前を叫んでいる。
身体をガンガンと揺すられる。
どうか死ぬ事を邪魔しないで。
「おいナーナ!?しっかりしろ!!!」
強い力で揺さぶられ消えかかっていた意識が戻らされる。ナーナは全身の力を振り絞り目を開けた。
「……ラース……隊、長……」
そこにいたのは紛れもなくラースで、
「ナーナ!!」
ナーナは信じられないといった表情をしている。
だが、もはやその瞳に力はない。
夥しい程の血液が拡がっている。ラースは自身が汚れるのも構わずナーナの側にひざまづいていた。
「どう、し……て……?」
呼吸が荒い。言葉を発するにも全身の力を必要としている。
「ナーナを探していた俺の前に、珍しい鳥が現れて……案内された」
「!!」
ラースの言葉にナーナはゆっくりと息を吸い込んだ。
血の気の失せたナーナの顔が、徐々に近づいてくる終わりの刻を告げていた。
「ラース、隊……長?」
「何だ?」
「……今ま……ありがと……ざいました……」
ナーナの呼吸が荒くなる。ラースはナーナを抱いている腕に力を込めた。
大切な部下が逝こうとしている。幾多の戦場で苦楽を共にした仲間。
「馬鹿!!礼なんか言うな!?ナーナにはまだまだ俺の側で働いてもらわなければならないんだ!!」
「嬉し……い……」
安心したのかナーナは笑った。ラースはその端正な顔に悲痛な表情を浮かべていた。
ナーナは残された力を振り絞りラースを見つめた。
「……好き……で……」
「ナーナ!?」
閉じられる瞼。
ガクンと力が抜けた身体。
いくら揺すっても呼び掛けてもその瞳が二度と開かれる事はなかった。
「……ナーナの気持ちは知っていたぞ?」
ラースは亡骸にぽつり呟いた。
「俺も、同じだったから」
ナーナに惹かれていた。大切な部下である前に、大切な女性だった。
ラースはナーナを抱き抱えると、冷たくなったその唇に、自分の唇をそっと重ねた。
小鳥に伝言