3.息子(三島一八)
【息子】
風間仁ーーーー。
初めて息子の存在を知ったのは何年前だっただろうか。
三島平八の元に孫と名乗る少年が現れたと風の噂に聞いたのが始まりで、実際に顔を合わせたのは鉄拳トーナメント4だった。
身体に稲妻をまとうは三島一族の証。そして仁の中に存在するデビル因子は間違いなく一八から受け継がれた物。だが彼には因子と共に退魔の力を持つ風間の血を受け継いでいた。
デビル因子と退魔の血。正反対の二つが辛うじて調和し精神の均衡を司っている青年、それが風間仁だった。
「一八さん具合でも悪いんですか?」
「……いや……別に……」
気がつくとナーナが心配そうに覗き込んでいた。
「さっきから仁くんをずっと見つめたままだったから、彼物凄く嫌な顔をして見てましたよ」
そう言うナーナの瞳は笑っているように見える。
「ちっ」
一八は照れ隠しなのか小さく舌打ちをすると、手にしていた日本酒をぐいっと飲み干した。
年始早々三島平八から一族の新年会を行うので本家に集まるように連絡があった。
しかも今回はナーナを同伴しろとの事。
まだ公にはしてはいないナーナの存在をどうやって知ったのか。
侮れない父親だと今さらながらに思ったが、ナーナを連れて行く事への抵抗はなかった。
三島本家の大広間には豪勢な正月料理が並んでおり一族の面子が顔を合わせている。
無論その中に仁の姿もあった。
彼も平八に言われたのか、同じ年齢くらいの女性と一緒に来ている。
彼女の存在はG社情報網を介して知っていたが、仁も彼女を公にしていない為世間には知られていない。
女を公の場に連れて来たという事は、近々何かあるのかもしれんな……。
自分のことはさておき、一八は仁を見つめながらそんな事を考えていた。
「……気色悪いな」
さっきから自分を見つめる視線に気づいていた仁は、ぼそっと呟いた。
いつもなら憎しみのこもった強い視線しか向けられないのだが、今日は違う。
「きっと一八さん考えているのよ。仁の父親として色々とね」
全てを見透かしているように、気にしない気にしないと彼女が笑う。
「父親ねぇ……」
その言葉が妙にくすぐったくて、仁は苦笑いするしかなかった。
宴は賑やかに続いている。
顔を付き合わせれば喧嘩ばかりの一族の面子が、珍しく今日はいがみ合いがない。
「ねぇ一八さん?私ね凄い事に気がついちゃった♪」
少しの間お酌等で動き回っていたナーナが嬉しそうな表情で戻って来た。
「一体何がだ?」
こういう表情をしている時のナーナ#は、くだらない良からぬことを考えているのだ。
そう、一八は知っていた。
「仁くんと彼女さんに子供が生まれたら、一八さんお祖父さんですよ!?」
「ぶはっ!!」
ナーナの発した衝撃的な言葉に驚いた一八は、口にしていたお酒を勢いよく噴き出した。
「ななな何を言うか!!」
明らかに動揺している一八に皆の視線が一斉に注がれる。
「だってホントの事だもん」
何でもないですと頭を下げ事態を収拾するナーナに、一八は咳ばらいをしごまかす。
「全く、何を言うかと思えば」
「仁さんがどう思おうとも、間違いなく一八さんの息子さんなんですよ」
何故か得意げな顔をしているナーナ。
今日は特にペースが乱されっぱなしだと一八は心の中でため息をついた。
「もし俺が祖父さんになったら、ナーナは若くして祖母さんだな……」
「ん?何か言いましたか??」
「いや、別に」
「えーーっ!気になります!!」
そんな事を思いついた自分に驚きつつ、そんな未来も悪くないと一八はふと思った。
「一八さんってあんな優しい表情するのね。噂ってはあてにならないな」
ナーナを見つめる一八の表情は優くて、見ていてなんとも微笑ましく感じる。
「ったく……いい歳して鼻の下伸ばしやがって」
父親と新しい彼女ナーナとの関係に思う事もあるのだろうが、珍しく感情を露にしている仁。
「もしかして仁、妬いてるのかな?」
手にとるようにそれが分かり、仁もまだまだ子供だなと思う。
「いや……その……」
何でもお見通しの彼女に、仁は言葉を濁すしかなかった。
ーーーー三島一八と風間仁。
憎しみ合っていた二人の関係は、少しずつであるがゆっくりと変わり始めていた。