何も変わらず過ごせますように
神聖ブリタニア帝国帝都ペンドラゴン皇宮内には、皇帝の両親や寵妃たちが眠る墓所がある。
花々の蕾も和らぎ始める3月。
アッシュフォード学園高等部を昨日卒業したナーナ。それを待って今日、帝都ペンドラゴン皇宮内にある聖エレイン教会大聖堂で結婚式が行われる。

「……一度お会いして、お話ししたかったです」
墓石に白い薔薇の花束を供え手を合わせた。墓所には似つかわしくない真っ白なウェディングドレス姿のナーナ。
「貴女と父のおかげで、私は大好きな彼の元へ嫁ぐことが出来ます。シュナイゼル殿下と出逢わせて下さり、ありがとうございました」
けぶるような金色の髪に薄紫色の瞳。シュナイゼル殿下とよく似た、それは美しい女性だったと父親が話してくれた。
「ナーナ―――」
遠くから父親が呼ぶ声が聞こえる。
「私、絶対に幸せになります。どうか見守って下さい」
深くお辞儀をしてから声の方へ歩き出した。

聖エレイン教会は初代ブリタニア皇帝が建立した歴史的に価値のある教会で、皇帝や皇族の婚姻の儀はここで行われるのが慣習だった。
大聖堂内に響き渡るのは聖歌隊の美しい歌声とパイプオルガンの荘厳な響き。
レッドカーペットの上を緊張した面持ちで歩くナーナ。対照的にシュナイゼルはいつもと変わらず自然体だった。
出席者に温かく見守られ、婚姻の儀の式次第は順調に進めらた。

「おめでとう!」
式を終え晴れて夫婦となったふたりに、フラワーシャワーが降り注ぐ。
式の出席者は皇室ナンバー上位者。ナナリー総督。シュナイゼルの腹心のマルディーニ伯爵。アスプルトン伯爵。セシル。ナイトオブラウンズの面々。ナーナの方の出席者は、両親と兄3人と執事。マーリン伯爵と技術者。アッシュフォード学園生徒会メンバー(ミレイ、リヴァル、シャーリー、ルルーシュ)。
本当はもっと少人数でこじんまりと式を挙げたかったのだが、皇族初の婚姻の儀ということで、しぶしぶ出席者を増やした。それでもかなり少なかったが。

『本日聖エレイン教会に於いて、神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニア第2皇子殿下の婚姻の儀が行われました』
『お相手の方ですが、ナーナ・ローエングリン大公爵令嬢。18歳。またローエングリン大公爵令嬢はナイトオブエイトとしても活躍しています』

速報は全世界を駆け巡り、年頃の女性たちの大半が悲しみにくれたとか。

『先ほど式を終えられ我々報道陣の前に姿をお見せになったおふたりの映像をどうぞ』

純白のウェディングドレスに身をつつんだナーナと皇子としての礼服のシュナイゼル。和かな春の陽射しに照らされて、数多の神々が嫉妬しそうなほどに、見目麗しいふたりだった。

婚姻の儀を終え様々な行事をすませた二人は、今日はピスケス宮に泊まる。
ピスケス宮はシュナイゼルが母親と生活していた宮殿。ただ母親が亡くなってからは足が遠退いていたため、今はゲストハウスとして活用されている。
式参加者やミレイ達生徒会のメンバーらも同じピスケス宮に1泊することになっていた。

「私は生まれつき全てを持っていた。だから何かが欲しいという欲を感じたことがなかった。全てを持っているが故に私は空っぽだったんだよ」
ピスケス宮内の一番奥にあるスウィートルームのバルコニーにふたりはいた。
シュナイゼルが手にしているのはグラスワイン。ナーナはホットワイン。春とは言えまだ夜は肌寒い。
「けれどもナーナ?君が私の指揮下に配属されて君と過ごすうちに、私の空っぽの心が鮮やかに色づいたんだ」
「シュナイゼル殿下……」
「ナーナの側にいる人に、私は初めて嫉妬した」
初めて出会ったあの日から、シュナイゼルとナーナは婚約関係にあった。もっともナーナは最近まで知らないことで、公にも出来なかった。
初めて感じた欲。それを紛らわすために、言い寄って来る女性達と一夜だけの関係を繰り返した。
「あの、……シュナイゼル殿下?」
「何だい?」
それまで黙ってシュナイゼルの話しを聞いていたナーナが口を開いた。
「私も同じでした。シュナイゼル殿下の隣に立ち並ぶ美しい女性達に、ずっと嫉妬していました」
なんて心の狭い醜い女なんだと自己嫌悪に陥ることもあった。
「だから私……とても幸せなんです」
そう言ってはにかむナーナがいとおしい。
「きゃあ!」
シュナイゼルはワイングラスをテーブルに置き、素早くナーナを抱き上げると、小さな悲鳴が上がった。

真っ白なさらさらなシーツ。柔らかいマットレス。ふかふかなキングサイズのベット。和かにベットルームを照らす間接照明。
「……っ」
見上げるとシュナイゼルが優しく微笑んでいた。それでも初めての不安に瞳が揺れる。
「怖がらなくてもいいよ」
「シュナイゼル殿下……その」
「大丈夫。私に全てを委ねてくれないか?」
ナーナの初めての不安、怖さ、恥ずかしさを、シュナイゼルは時間をかけて解きほぐす。

「愛しているよナーナ。今までも、これからも……」
「私も愛しています」

微笑み合い自然と唇が重なった――――。

レースのカーテンから溢れる朝の光が眩しくて、ナーナは目を覚ました。
(私、?)
頭上から響く規則正しい呼吸音に顔を動かせば、朝日を浴びた金色の髪がきらきらと輝いていた。
(綺麗だな……)
シュナイゼルの腕の中彼の寝顔に見とれていたら、
「そんなに見つめて、穴が空いたらどうするんだい?」
声と共にシュナイゼルの瞳が開かれた。薄紫色の瞳に優しい光を宿しナーナを見つめる。
「お、おはようございます、シュナイゼル殿下……」
見とれていたことに、急に恥ずかしくなる。
「おはようナーナその『殿下』って、止めてくれないかな?」
「えっ、でも……」
「私たちは夫婦になったのだから、『シュナイゼル』と」
確かにそれは当たり前のこと。でもいきなり敬称略なんて……。
「シ、シュ、シュナイゼル……」
「良く出来ました」
「んっ……」
優しい口づけが降ってくる。額に、頬に、鼻に、唇に。
朝の光をその身体に感じながら、ふたりは果てることのない快楽のうねりに呑み込まれていった。

これからも、何も変わらず過ごせますように――――。

それは、祈りにも似た願いだった。


---アトガキ---
お題『君にプロポーズ』一応完結です。素敵なお題に胸をときめかせながら、下書きなしのぶっつけ本番で書きました。誤字脱字などありましたら、こっそり連絡して下さいね。かなり捏造が入っていますのでご了承下さいませ。後はサイドストーリーを幾つか書こうかな?
2019.02.02 今日はK.H.S氏の誕生日。

不知夜月