幸せと寂しさの裏表
※お題君にプロポーズの話の続きです。先にそちらをお読み頂いてからこちらを読んで下さい。微々裏です。苦手な方は回れ右です!
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幼い時の約束。私の心のいちばん大切な場所にあの人はいた。

数ヶ月前私は初恋の人、神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニア第2皇子妃殿下になった。
沢山の人に祝福されて、私の願いはひとつ終着点にたどり着いた。
私の前の名前は、ナーナ・ローエングリン。今は第2皇子妃殿下だけど、元々大公爵家令嬢。そして神聖ブリタニア皇帝に絶対的な忠誠を誓ったラウンズ第8番の冠を戴いているナイトオブエイト。
婚姻に対し、ラウンズとして活動することは皇帝以下認めてくれていた……そのはずだった。
けれども皇族の妃がナイトオブラウンズを続けるという前代未聞の事。皇宮内外に様々な噂や陰口が流れた。
昔の慣例を重んじる人たちとが意外と多く、否定的な意見が多かった。シュナイゼル殿下もその対応に苦慮したことだろう。嫌がらせ、悪口は日常茶飯事。
同じラウンズのヴァインベルグ卿やアールストレイム卿、枢木卿がいて、さらにナイトオブワ ンヴァルトシュタイン卿も一役かって下さり、今は落ち着いている。
私は、凄く恵まれているのだと思った。

結婚したから……といって甘い新婚生活が待っていた訳でもなく、私はエリア11でシュナイゼル殿下の下ラウンズとして行動している。
ここでは、皇子殿下と妃殿下ではなく、帝国宰相とラウンズ、第2皇子とナイトオブエイトである。
顔を合わせることも、言葉を交わすことも少なく、正直寂しいと思う事がある。
でも彼はブリタニアの為に戦っているのだし、考えてもいる。
だから私が寂しいなんて思っちゃ駄目だ。

そんな時は左手の薬指を見つめる。そこには白金の結婚指輪がある。あの日神様の前で誓い指輪交換をした。
私たちは顔を合わせなくても、言葉を交わせなくても、繋がっている――――。

そんなある日。デスクワークを終えてサロンで遅めのお昼をとっていたら、同じラウンズの仲間であるジノに声をかけられた。彼も休憩時間だそうで、コーヒーを片手に私の隣に座る。
「ナーナは寂しいって思わないのか?」
他愛のないことを話していたはずだった。けれども不意にジノの口から滑り出た言葉に、私は答えようかどうしようか迷った。
「……寂しいよもちろん。結婚した方が結婚する前より遠くなるなんて思わなかったから」
少し考えてからジノの問いかけに素直に答えた。今さら彼の前で強がってもしょうがないと思ったから。
ジノは私より2才年下だけどとてもしっかりしていて、たまに年上なんじゃないかと思うことが多々ある。
「それ、シュナイゼル殿下は知っているのか?」
「知るはずがないよ?だって私たち仕事の話ししかしないから」
「あのさ、立場上色々あると思うけど、言葉にして伝えないと駄目なこともあるぜ?」
ジノの言うことは最もだと思う。
「それは……」
「邪魔だとか迷惑とか思うなら、そんなこと考えなくていいんじゃないか。君たちは夫婦だろ?」
「っ!……そう、だね。考えてみるよ」
一瞬心を読まれたのかとドキッとした。

ジノがどうしてそう言うのか分かっていた。このところ私の戦闘能力が著しく低下しているからだ。
『ブリタニアの絶対防御』の名折れ。
エレインのみんなも心配してくれているけど、自分でも原因はよく分からない。

その日の夜、ジノはシュナイゼルの執務室を訪れていた。そして昼間の会話と彼女の状態を彼に伝えていた。
「……と、まあ今はこんな訳なんですよね」
「なるほど」
シュナイゼルの側で腹心のカノンがやや呆れたような表情をしていたのに、ふたりは気づいていない。
「正直ナーナが戦闘に於いて不調なのは、わが軍の士気にも兵士の命にも関わりますから」
精彩を欠くナーナの戦闘。本人は気づいていないのかもしれないが、長くラウンズとして戦場を共にしているジノたちには分かるのだ。
「おふたりはご夫婦ですよね。何をそんなに遠慮する事があるのですか?」
「!!」
その言葉はシュナイゼルの心に深く響いていった。

エリア11総督府エレインのドックで、ヴィヴィアンの調整を整備士としていたナーナは、技術主任のマーリンに『女同士の語り合いだ』と、彼女の部屋に問答無用で連れて行かれた。
「ナーナ。分かっていると思うけど貴女の不調はシュナイゼルと結婚してからよね?」
「……はい」
「まさか幸せボケ、色ボケじゃないわよね?」
「それは……違います」
「それなら原因は?」
遠慮のないマーリンの言葉だけど全く不愉快さは感じない。
「多分、寂しいから」
「寂しい?」
「結婚する前よりした後の方が殿下が遠くて」
マーリンは一瞬ノロケかと思ったが、今のナーナの様子じゃあり得ない。
「……悪いがやっぱり色ボケだな。そんなのとっととシュナイゼルと話し合えばいいことだろう?」
「ジノにも話し合えばいい、と言われました」
「誰だってそう思うさ」
マーリンは優しく私を見た。
マーリンは年齢不詳。シュナイゼル殿下のことは呼び捨てで呼ぶ。フランク過ぎて身分のある人たちからの評判はよくない。
「ところですばり訊くが、夫婦の営みってやつはあるのかい?」
私は無言で首を左右に振る。
「まさか、初夜だけとか!?」
マーリンの言葉に小さく頷くしかなかった。

あの『ブリタニアの○○○○』とモテない男たちに陰で揶揄されていたシュナイゼルの、その女性遍歴は男性皇族の中で群を抜いていた。
一夜限りの関係だったが、それでいて女性に恨まれたりしていないのだから質が悪い男だとマーリンは思っている。
(まあ、あの容姿であの性格じゃ、モテない方がおかしいけどな)
けれどもナーナに至っては婚姻の儀まで(15年間)お手つきをしなかったそうだから、彼女のことは本当に大切なんだとマーリン理解していた。
まあその反動が、華麗なる女性遍歴だったのだろう。
(……待てよ。じゃあこの数ヶ月間あいつはどう処理してたんだ?)
不意に胸に浮かぶ疑問。嫌なそれしか出てこない。
「マーリンどうしたの?」
「……それにしても新婚生活って、もっと甘々でイチャイチャとヤりまくりだと思っていたからね」
想像してしまったそれをかき消すように、気づかれないように話題を変えた。
「宰相とラウンズ。……今は戦時下だから仕方ないと諦めてます」
「幸せと寂しさの裏表か……」
いじらしいと言うか、健気というか。
「いっそ媚薬でも盛って、ナーナから押し倒してみるかい?」
案外喜ぶかもしれないとマーリンは白衣のポケットから小さな硝子瓶を取りだし、ニヤリと笑った。

「で、そこの所はどうなんだい?」
「まあそれについては白だね。カノンに訊いてもらってもかまわないよ」
一方的に話して、一方的に完結させる。それはいつものこと。
「……だが、このままでは良くないなシュナイゼル。話し合うなら早い方がいいと思うぞ」
「マーリンはいつもナーナを気にしてくれるね。それはとても有難く思っている。これからも頼むよ」
「私もナーナが好きだからね。彼女の笑顔が見たい。泣き顔は見たくない。ただそれだけさ」
ひらひらと手を振りながら執務室から出て行くマーリンをシュナイゼルとカノンは見送った。
「この前はジノ。そして今日はマーリンか……」
紅茶の注がれたカップを覗き込む。赤みかかった琥珀色の液体に写るのは自分の顔。
それにしても訊きにくいことでもズバッと訊いてくるマーリン。『私に嘘は通じないよ?』と言われれば納得してしまう。
「一度ナーナ様と話し合ってみては如何でしょうか?」
カノンは気づいていた。結婚式を挙げてエリア11に戻って来たふたりが夫婦ではなく、宰相とナイトオブエイトになっていることに。ただ彼は口出ししなかった。これはふたりの問題だからと。
「……ああ、そうだね。カノン?ナーナは愛されているんだね」
「マーリンたちの気持ち、私も分かりますから」
それは自分のことのように嬉しかった。

それからしばらくして、私はカノンさんからシュナイゼル殿下の執務室に来るように言われた。
「失礼いたします。シュナイゼル殿下」
執務室の扉を開け中に入る。この部屋の主は執務机でいくつかの書類に目を通していた。
「やあ来たね」
優しい笑みで見つめられ、私の心臓が跳ね上がる。
「あの、お話しとは何でしょうか?」
「……場所を変えようかナーナ?」
私の顔をじっと見つめていたシュナイゼル殿下はそう言い、カノンさんに指示をだす。
「さっき言ったように、重大な案件以外は全て君に任せるよ」
「かしこまりました殿下」
「?」
それが何を意味しているかなんて、その時は分からなかった。
私はシュナイゼル殿下に手を引かれて、彼の私室に連れて行かれた。

「し、失礼します……」
エリア11総督府のシュナイゼル殿下の私室。私たちは別々の部屋で生活しているから、この部屋に入るのは初めてだ。
(ここが殿下の私室……)
キングサイズのベットに簡易的なキッチン。ソファーとテーブルという簡素な部屋。隣がバスルーム。広さを除いて私の部屋とあまり変わり無さそう。
「はい。温まるよ」
「ありがとうございます」
「これはマリーベルからお土産にもらったメラ産の極上品だよ」
シュナイゼル殿下自ら淹れてくれた紅茶は香り高く豊潤な味。『私が淹れます』と言ったら、やんわりと断られたけど。
「さてナーナ。少し話しをしないかい?」
「話し、ですか?」
こうして向かい合って話すのは結婚式の夜以来。
「実はこの所ナーナが元気ない、戦闘でも覇気がないと言う声があるんだよ」
「……」
「何か悩んでることがあったら話してくれないかな」
「それは『どちら』で答えれば良いのですか?」
私は自分の口から出てきた言葉に驚いて俯いてしまった。だからシュナイゼル殿下の表情は見ていない。
直ぐに言ってしまったことへの後悔が押し寄せてくる。
「……そういうことなのか」
「!?」
そっと取られた手の温もりにビクッとして顔を上げると、私の前に跪づいたシュナイゼル殿下がいた。
「寂しい思いをさせてしまってすまなかった。 正直、私にも戸惑いがあったんだ」
妻であるナーナはラウンズの一員。妻だからと贔屓をすれば兵の士気に関わり、しなければしないで何かあるのかと詮索される。
「だから私は逃げていたんだ。そんな私の態度がナーナを知らず知らずのうちに傷つけていたんだね」
シュナイゼル殿下は私を引き寄せきつく抱き竦める。その温かさと抱えていた小さな胸の痛みに泣きそうになった。
「『おふたりはご夫婦ですよね?何を遠慮することがあるのですか』と言われて気がついたんだ」
「殿下……」
「寂しい思いをさせてすまなかった。これから少しずつ夫婦としての時間を取り戻そう」
「はい……」
ゆっくりと重なる唇。私はシュナイゼル殿下の唇を感じながらそっと目を閉じる。
嬉しかった。
初めて心が通い合ったような気がした。

それからした事はひとつしかない。
「まだ恥ずかしいかい?」
これで2回目。素肌で抱き合うのには馴れないし、恥ずかしさで心臓がもたない。
「でも、……恥ずかしさも馴れないのもシュナイゼル殿下だから、そんなわたしを見せられます」
「全くナーナはそんなに私を煽ってどうするんだい」
「やっ……そん、ひゃぁ!」
シュナイゼル殿下の身体が一旦離れると、次の瞬間甘い痛みが私の身体を貫く。
汗ばんだ身体、冷めない熱。
恥ずかしさも、馴れない痛みも、何も考えられず私は彼に導かれるまま快楽に溺れていった。

(か、身体が、起きられない!?)
足腰が立たないという言葉の意味を理解し枕に顔を埋める。
昨日はもう途中から覚えていないというか多分意識を飛ばしたのだと思う。
「おはようナーナ。どうしたんだい?」
「お、おはようございます!あの、その……痛くて……」
恥ずかし過ぎて、もう穴にあったら入りたい。
「無理させてしまったかな」
「いっ!」
そう言うとシュナイゼル殿下は私を抱き上げた。薄紫色の瞳と優しい笑み。整った顔が近くて心臓がうるさい。
「それと、ふたりきりの時は『殿下』は禁止だって言ったはずだよ?私たちは夫婦になったのだから」

それからふたりでしたことは一緒お風呂に入ることだった。けれどもやっぱり無事では済まなかった。
身体が痛いと言っているのに止まらないシュナイゼル殿下の欲。またしても私は痛みに耐えながら、押し寄せる快感の波が意識を飛ばすまで、彼が満足するまで抱かれ続けた。

その日1日。私はシュナイゼル殿下の私室のベットの上で過ごすことになったのは、言うまでもない。


---アトガキ---
結婚しても立場上イチャイチャ出来ないふたりを書きたくて書いたら、最後甘々に(笑) 何だかギャグぽくなりましたが。ちなみに『ブリタニアの○○○○』は私の創作で、そして『マーリン』はオリジナルキャラです。私は彼女が好きだったりします。
2019.02.15

不知夜月