幸せの瞬間

12月。街中がクリスマス一色に変わる月。

でも私にはクリスマスなんて関係ない。
仕事に追われ毎年クリスマスを祝うどころではない。

唯一クリスマス休暇がとれたのは、三年前だった。


12月23日。深夜。
へとへとになりながら帰宅するが、誰が待っているわけでもない私の家。
郵便ポストを覗く。
「……おかしいな」
三年前から毎年届くクリスマスカード。
他のいらない郵便物はきているのに、それだけ今年は届いていない。
何だか凄くショックで、疲れがどっと身体をおおっていく。

仕方ないのかな?

――――そうあれから三年。

連絡手段といえば私から電話を掛けるくらい。でも時差があるし彼らの仕事は不定期だから、なかなか連絡をつける事が出来ない。だから自然と私から連絡する回数が減っていった。

彼らからは年に一度クリスマスカードが届く。それが彼らが元気でいる事を知らせてくれる唯一彼らとの繋がりだった。

「疲れた………」
バックを乱暴に床に放り投げる。投げた拍子にバックの中身がバラバラと床に転がった。


12月24日。
クリスマスイヴ。
昼食時間。
「ナーナの今日の予定は?もし空いているなら」
「今日は午後から社長のお供で取引先とのクリスマスパーティーに出席。その後は明日から休みだから今日のうちに会議の資料作りをする予定」
クリスマスなんて関係ないと同僚に苦笑い。
「あんたを狙ってる男子社員多いのに。残念」
残念そうな顔の同僚。
「付き合い悪くてごめん」
そう、本当にクリスマスなんて関係ない。まともにパーティーしたのはいつ頃だったかな?

思い浮かぶのは三年前。
青い瞳に銀色の髪の二人。

私は頭を振り三年前の思い出を振り払う。まあ今は独り身だし、彼氏が欲しいとは思わない。
仕事をしていれば色々紛らわせるから。

そんな事を考えながらふと窓の外を見る。

そう言えば、クリスマスカードは彼らに届いただろうか?

「そう言えば今年は雪が降らないらしいね」
「そうなんだ。残念。で、夜は合コン?」
「そう!今年こそいい男ゲットして結婚よ。うかうかしてたらすぐ30代よ!?」
同僚は軽く手を振ると休憩室を出て行った。

彼女はたくましいなあと思う。恋に仕事に楽しく毎日を過ごしている。

「結婚、か……」
自分は毎日仕事に追われ今は周りを見る余裕がない。
ナーナは溜め息をついた。


「寒っ!」
深夜近くようやく仕事を終えて外に出ると、ひやりとした空気が肌をかすめていく。
夜空を見上げると空気が清んでいるのか、月や星が瞬いているのに見とれていた。

高層ビル街を地下鉄乗り場まで歩く。

カツン、コツン……。

私の足音が静寂の中響き渡る、はずだった。

カツン、カツン……。

あきらかに私の足音ではない靴の音が背後からする。
まるで私と歩調を合わせるかのように。
後ろを振り返ってみても誰もいない。
私は急に怖くなってタクシーをひろい、逃げるように自宅マンションに帰った。

「ふう……」
部屋に入りホッと胸を撫で下ろす。
特にマンション付近にも怪しい人はいなかった。

もしかして私の勘違いかな?

ベットに身体を投げ出すと一気に疲れが押し寄せてくる。
何も考えられず私は目を閉じた。
…………!!

ハッとして目を覚まし時計を見ると日付が変わっていた。
「うとうとしちゃったみたい」
ふとカーテンを閉めていない事に気付き窓へ近付いて行く。
「え?嘘?」
窓の外では雪が降っていた。

天気予報でも今年は降らないって言っていたのに!?

鍵を空けててベランダに出てみる。
そっと手を差し伸ばせば白い結晶が掌に舞い降りては消えていく。
確かに雪だ。
しばらく雪をボーッと眺めていたら、

ピンポ―ン……。

不意にチャイムが鳴った。

こんな時間に誰だろうと思いながらモニターに写った人影に、私は息を飲み込んだ。

慌てて玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは――――、

「バージル!!ダンテ!!」
「「Merry X'mas!!」」

青いコートを纏ったバージル。
赤いコートを纏ったダンテ。

私が一番会いたいと思っていた彼らが、そこに立っていたのだ。

「カードじゃつまんないから、直接会いに来たぜ?」
とはダンテ。
「元気にしてたか?何だ随分疲れた顔をしているな」
心配してくれるのはバージル。

何て嬉しいサプライズ!

堪らず私は二人に抱き着いた。
二人ともしっかりと抱きとめてくれる。

三年前と変わらない温もり。
三年前と変わらない二人。

「ちゃんと食ってるのか?相変わらず細いな」
「ダンテどこ触ってんのよ!!」
「ダンテの言う通りだ」
「バージルまで止めて!!」
どさくさに紛れて私の身体を触りまくる二人。

彼らの変わらない態度に今までの憂鬱な気分も吹っ飛んでしまう。

何てゲンキンな私!!

「でもどうして?」
「ナーナからのクリスマスカードを見たら、無性に会いたくなった」
「元気がないように感じたからな」
「二人とも……」
二人の優しさに、不覚にも目頭の熱さを感じてしまう。
それを隠すために、私は強く二人の胸に顔を埋めた。

泣いているのがわかるかな?
でもいいの。
二人になら泣かされても構わないから。

「Thank you so match.」

ちょっぴり涙声。

「「You are welcome!」」

二人はぎゅっと私を抱き締めている腕に力を込めた。


「さて、クリスマスパーティーを始めようぜ」
「でも私ケーキも何も用意してないけど」
「用意ならしてあるさ」
そう言って二人は思い出したように玄関のドアを開ける。
そこには綺麗にラッピングされたプレゼント。
可愛いデコレーションのクリスマスケーキ。
そして様々なオードブルとシャンパンなどが用意されていた。
「凄い!!」
驚いてその光景をみているとバージルが更に付け加えた。
「ついでに雪もナーナにプレゼントだ」
「え!?そんなこと……」
「オレ達なら不可能はないぜ」
二人の青い瞳が自信に満ち溢れている。

不可能を可能に。
二人なら何でも出来そう。

「明日は雪だるまを作ろうね」
「「仰せのままに」」


憂鬱だった今年。
変化のない自分。

――――でもこれから何かが変わりそうな予感。


Happy X'mas!
   &
Happy New Year!!


---アトガキ---
元題は Happy Night.です。一人称が難しかったのを覚えています。ちなみに雪はあのカエルが降らしています。

不知夜月