七夕前夜 後編

既に太陽は沈み、コバルトブルーの空が広がっていた。

「今日はここまでだな」
バージルは閻魔刀を鞘にしまう。
「俺はナーナが好きだ、だから……」
「お前が想うのは勝手だが、選ぶのはナーナだ」
「んな事分かってる!」
ダンテはバージルの胸ぐらを掴む。
「なら、離せ!」
バージルはダンテの手を払いのけた。

二人が事務所に戻ると、部屋の中は真っ暗だった。
「ナーナ?」
「いるはずだよな?」
バージルが事務所の電気をつけると、
「……スゥ……スゥ……」
窓際のテーブルの上で、ナーナは気持ち良さそうに眠っていた。
二人に笑顔が広がる。
「風邪引くぞ、ナーナ」
ダンテはナーナを起こさないように抱え上げた。
「ナーナをどうするんだ、ダンテ?」
「部屋に連れて行く。頑張ってたからなナーナ」
「そうだな」
バージルがナーナの頭を優しく撫でると、
「……スゥ、スゥ……」
安らかな寝息が聞こえた。


サラサラ……サラサラ……。

開け放たれた窓から入る風が、笹の葉を揺らして行く。

バージルは七夕飾りを見つめていた。

金色、銀色。色とりどりの七夕飾りが風に揺れている。テーブルには五色の短冊が何枚も並べられていた。
ふとナーナの書きかけの短冊が目に入る。

『バージルとダンテが喧嘩をしませんように』

バージルは苦笑いする。
別にナーナを困らせようとダンテと喧嘩をしている訳ではない。

どうしても譲れない想いがあるのだ。

ナーナを好きだと言う気持ちが!
ナーナをダンテに渡したくない!

バージルは短冊を一枚手に取ると、ペンを走らせた。


スゥ……スゥ……。

安らかな寝息を立てているナーナ。
長い睫毛。
形のよい唇。
初めて自分が母親以外で守りたいと思った女性。
バージルには渡したくない。
「ナーナ、好きだ……」
ダンテはナーナの頬にそっと口付けた。


ダンテがナーナの部屋から戻ると、バージルが笹に短冊を吊していた。
「ナーナは?」
「ぐっすり眠っているよ」
ダンテはバージルの側に行く。
「何をしているんだ?」
「お前も書くか?」
バージルはダンテに紅い短冊を手渡した。

「ナーナは何を願うのかな」
「さあな……」

見上げる七夕飾りが風に揺れていた。


夜二人が寝静まった頃、ナーナの姿がそこにあった。
緑色の短冊を笹に吊している。
「バージルもダンテも書いてくれたんだ!」
そっと二人の短冊を手に取った。

『ナーナといつも笑顔で過ごせるように』
『ナーナといつまでも一緒にいたい』

二人の自分に対する気持ちが伝わってくる。

いつか二人のうち、どちらかを選ばなくてはならない日がくるのだろうか?

「いつまでも三人でいたいな……」

二人が大好きだから。

不意に温かい手がポンとナーナの頭の上に置かれる。ナーナは驚いて顔を上げた。
「バージル!」
「起きていたのか?」
優しいバージル。
ダンテは血が通ってない冷血人間だって言うけど、
「何をしているんだ?」
「願い事を書いていたの」
私の一番の理解者。
「俺を忘れるなよ!」
声と共に肩に回される腕。まるでバージルから引き離すように。
「ダンテ!!」
「抜け駆けはなしだぜ」
腕を解きながらウインクをするダンテ。
ダンテは明るくて楽しくて、バージルとは正反対。
バージル曰く、脳天気なのも考えもの……だそう。
ダンテはいつも優柔不断な私の背中を押してくれる。

二人共私の大切な人。
いつも喧嘩している二人だけど、お互い息はピッタリで、本当は信頼しあっている。

「何を願ったんだ?」
「俺も聞きたいな」
ナーナを挟むように二人は立つ。
ナーナは少し考えてから、
「バージルと」
「ん?」
バージルの左腕に自分の右腕を、
「ダンテと」
「おっ!」
ダンテの右腕と自分の左腕を絡ませる。
「ずーっと三人でいられますようにって」
二人の顔を交互に笑顔で見つめる。

「バージルもダンテも大好きだから、ずっと一緒にいれますように……」

それが私の願い事。

ギュッと絡ませた腕に力を込める。
バージルとダンテは顔を見合わせると、
「「ナーナ、ずっと一緒にいような」」
「!!」
頬に温かい二人の口付けを感じなから、ナーナは幸せを感じていた。

明日は七夕。
浴衣を着て、星が沢山見える場所に三人で行こう。そして天の川に一番近い場所で願いが叶うように祈ろう。

バージルとダンテと私。

私達が、これからも仲良く一緒にいられますように。

これからも、ずっと……。


---アトガキ---
元題は The Star Festival.
キリ番リクエストの双子の甘夢で、書いていてのが七夕の時期だったので季節のお話になりました。

不知夜月