神に背いた恋 前編
ナーナは走っていた。
ただひたすらに、逃げるように走っていた。
頬が痛い。
多分赤く腫れているだろう。
でも痛さより、今は心が張り裂けそうに……苦しい……。
どうして私達は血が繋がっているの?
どんなに私が恋焦がれても、私は妹。
――――バージルの妹。
この言葉が大嫌い。
「……」
バージルは自分の右手を見つめていた。
何故、感情が先立つ前に俺は……。
妹。ナーナ。
幼い頃に母親と共に殺されたと思っていた。
13年振りに再会した時、直ぐにナーナだとわかった。母親の面影を色濃く残した、金色の髪に青い瞳の妹。
小さかったナーナは、大人の女性になって俺の前に現れた。
始めは戸惑いもあったが、ナーナが実の妹だと思う事で一緒に居る事が出来た。
大切にしていた、妹。なのに……。
バージルは拳を壁に叩きつけた。
ダンッ!!
『Devil May Cry』が揺れる。
バージルは何度も拳を壁に叩きつける。
いつしか拳からは血が滲んでいた。
「バージル!!」
見かねたダンテが、バージルの腕を掴んだ。
「やめろバージル!」
大きくはないダンテの声だが、バージルの行為を止めるには効果的だった。
「……」
バージルは何も言わない。
「バージル?お前は何故自分の気持ちを隠す」
バージルはダンテの言葉に、反応する。
「俺が隠す?」
「ああ……」
「俺が自分の気持ちを隠しているだと?!」
ガバッとバージルはダンテに掴みかかるった。
「ナーナは妹だ!それ以上でもそれ以下でもない!!」
「妹ね?本当にそう思っているのか!?」
「何ッ!?」
「妹としか思ってないなら、何故ナーナを束縛しようとする」
門限をつくり、ナーナの行動を制限する。
「ナーナはもう大人だぜ?何故彼女の生活に入り込もうとするんだ!?」
「うるさい!!」
バージルはダンテを床に叩きつけた。
「ほら見ろ、お前はナーナの事になると冷静でいられなくなる」
「!?」
「好きなんだろう?」
ダンテは立ち上がり、今度はバージルの襟元をつかみ、グイッと自分の方に近付ける。
「ナーナが好きなんだろう!?」
「……あいつは、妹だ……」
「妹?だからどうした?」
「許されないだろう!実の妹を好きになるなんて!!」
バージルは吐き捨てるように言う。
「やっと認めたな……」
ダンテはバージルを突き放した。
バージルは乱れた襟元を直す。
「ナーナはお前が好きだ。彼女もどうしようもない想いを抱いて日々を過ごしている」
門限は破る。無断外泊。家出。
ナーナはバージルの言い付けを破り、その度に喧嘩になる。
今回もナーナの無断外泊。
しかも男付き。
バージルは烈火の如くナーナに怒りをぶつけた。
何度か言葉のぶつかり合いがあり、ナーナは言う。
「バージルは私を何だと思っているの!?」
その言葉は、彼にかなりの衝撃を与えた。
「私は貴方言いなりの、人形じゃないの!」
「何だと!?」
パシッ!!
バージルの右手が宙をまっていた。
気持ちのいいくらいの音が響き渡った。
「バージルは、どうして私を心配するの?」
ナーナを叩いてしまった……。
バージルは動揺に駆られ、言葉が出なかった。
「……妹、だからだ」
ようやく絞り出した言葉は、気持ちと裏腹な言葉。
そうではない。お前の事が好きだから。
お前が何をしているのか。
お前が何を考えているのか。
知りたいんだ。
そう言えればどんなに楽か!
だがこれは禁句だ。
ナーナと俺は兄妹だから……。
「わかってた。私はバージルお兄ちゃんの妹だって。私がバージルの事をいくら好きでも、それ以上にはなれない!!」
ナーナはそう思いを吐き出すと、出て行ってしまった。
バージルは再び右手をじっと見る。
ナーナを追いかけなければ……。
だが、追いかけてどうする?
相反する二つの気持ちに、バージルは動けないでいた。
「血の繋がりが何だ?」
「ダンテ?」
そんなバージルの気持ちを見透かしてか、ダンテが言う。
「血の繋がった妹だから、愛してはいけないのか?」
「そんな事は許されない」
「誰が許さないんだ?」
「誰がって……」
「お前は世間体を気にしているだけじゃないのか!?」
ダンテの言う事は正論でバージルは言い返す事が出来ない。
「ナーナはバージルが好きで、お前もナーナが好き」
「だから何だ!」
「後悔するなよ……」
ダンテはそれっきり口を開かなかった。