手を繋いだ後は

あの出来事の後、人込みでは手を繋い歩くようになったバージルとナーナ。
あれから少しは打ち解ける事が出来たけど、未だ二人きりになると緊張してしまう。
不意に会話が途切れたりして。
でも前よりはかなり進歩しているとナーナは思う。
ゆっくりとバージルに近付ければいいと思っていた。

そんなある日の事―――――。

例のごとく買い物当番の二人は、いつも行くストアーより少し遠い複合施設に来ていた。
ここは国内でも有数のアウトレットモール。
今日は祝日という事でモール内は家族連れやカップルなどで賑わっていた。
「凄い人だね」
「ああ……そうだな。はぐれるなよ」
「うん!」
ナーナはぎゅっと繋いでいる手を握った。

必要な食材などを手際よく買い物していくバージル。あれよあれよという間に買い物は終わってしまった。
「思ったより時間があまったな。どこか見たい所はあるか?」
「じゃあ……あそこに行きたい!」
バージルの思いがけない言葉に驚きつつもナーナは、さっきから気になっている場所に歩き出した。

建物の一角のそこには沢山の人たちがいた。よく見るとカップルが多い。
バージルは気が進まない様子であったが、ナーナはかまわず列に並んだ。

数分並んだだけですぐ二人の番がきた。
簡単な受付けを済ませると二人はゲートをくぐった。
「何だこれは?」
「何って……ゲームだよ」
二人の目の前には様々なアトラクションが広がっており、カップルが楽しそうにアトラクションに挑戦していた。
「一体何をするんだここは」
「もしかして、入口の案内板見ていないの?」
「案内板?」
ナーナの指差す方にこのイベントの内容が書かれていた。

それはこのアウトレットモールで年に一回開催されている人気のイベント。
カップルがより愛を深めるために様々なアトラクションに挑戦してタイムを競うというカップル限定の企画。

「てっきりバージル分かっているのかと思ったんだけど……」
「……」
みるみる無表情になるバージル。
「バージルが嫌なら辞める。出よう」
ナーナは少し悲しそうな顔をすると、バージルの手を引き出口へと歩こうとした。
だがバージルが少し力を入れてナーナの手を引く。
「バージル?」
「嫌とは言っていない。やりたいのだろう?」
今度はバージルがナーナの手を引きすたすたと歩いて行く。
「バージル……ありがとう!」
ナーナは嬉しそうに笑うとバージルに着いて行った。

絶叫マシーンだ、シューティングだ、謎解きだと色々なアトラクションを最速タイムでなんなくクリアーした二人は、最終ポイントに辿り着いた。

最終お題は『恋人同士の証を示せ』。
そこにはくじ引きをする時に使うような箱と、ポラロイドカメラが置いてあった。
「これ引いていいのかな?」
「おそらくそれにどういう事をすればいいのかが書いてあるんだろう」
そう言ってバージルは箱の中に手を入れて紙を一枚取り上げた。
ゆっくりと紙を開くバージルの表情が僅かに変わったのをナーナは見逃さなかった。
「何が書いてあるの?」
少し背伸びをしながらバージルの手元を覗き込むナーナは思わず息をのんだ。
「!?」
「……」
その紙に書かれていた指示は『キスの写真を撮れ』だった。
本当に恋人同士の二人なら何の問題もないことだろう。
けれどもバージルとナーナは……。
「やっぱり、ゴール諦めようか?」
「……」
「キスだもん……その、やっぱり……」
つい最近やっと手を繋ぐようになって、少しずつバージルとの距離が近付けたと思ったのに、いきなりキスなんて!!
ナーナは俯いた。

……えっ!?

少しの間無言だったバージル。だが不意に繋いでいた手が離された。
バージルのその行動に驚いたナーナが顔を上げると、バージルがナーナを見つめていた。
吸い込まれそうな綺麗な青い瞳に胸の鼓動が早くなるのを自覚した。
するとバージルの手がすっと伸びてきてナーナの顎にそえられる。
「バ、バージル?」
何が起こったのか分からないナーナ。
「恋人同士の証が必要なんだろう?」
「え……!?あ……でも……」
「俺とキスするのは嫌なのか?」
「そうじゃなくて」
バージルの言葉に混乱しているナーナの、その様子がとても可愛いらしい。
「ならば瞳を閉じろ」
「はい……」
言われた通りナーナは瞳を閉じた。

ドキドキ……ドキドキ……。

胸の鼓動が更に早くなる。

バージルに聞こえそうで恥ずかしい。
ううん、きっとバージルに聞こえているはず……。

そんなことを考えていると、唇に柔らかい感触を感じた。
それはほんの数秒の時間なのに、まるで永遠に続くかのような感覚に支配された。

唇が離れて瞳を開くと、バージルと目が合った。何となくばつが悪くて二人は視線を外してしまう。
「行くか」
「うん」
現像した写真を手に取りゴールに向かった。


帰り道は二人とも無言だった。

何を話していいのか分からない。
恥ずかしくてくすぐったくて。
でも胸に不意に浮かんでくる疑問。

どうしてバージルは私とキスをしたのだろうか?
あんなゲームの特に凄い景品がもらえるわけでもないのに。

バージルに聞きたい。でも怖い。

「あ、あのねバージル。前に私を助けてくれた事覚えてる?」
「……?……ああ……」
「あの時バージルが言ってくれた言葉と、今日のキス。……期待してもいいのかな?」

『こいつは俺の女だ!』

あの時私を襲った男の人達にバージルはそう言った。
ずっと聞きたかった。

あれはバージルの本心なのか、その場しのぎの言葉だったのか。

「お前がそう思うのであれば、それでいい」

しばらくの時間の後返ってきた言葉はそれだけ。
でも彼の顔が。

「?それってどういう意味なの??」
「自分で考えろ」
バージルはすたすたと一人で歩いて行ってしまった。
「待ってよバージル」
慌ててバージルを追い掛けるナーナ。

あのバージルの表情は、見間違いなんかじゃないよね?

さっき一瞬だけ垣間見せた顔は、赤かったよね?

「バージル!!」
何とか追い付きバージルのコートの裾を掴むとバージルの足が止まる。
「手、繋いでくれなきゃはぐれちゃうから」
ぎゅっとバージルの手を握るナーナの頬はほんのり赤く染まっていた。
「帰ろう」
「ああそうだな」

手を繋いで帰る道は、心がポカポカと温かい。

また少しバージルとの距離が近付いたと思う。結局バージルの気持ちは今回も分からなかったけど。

でも近いうちに分かりそうな。
そんな確かな予感をナーナは感じていた。


---アトガキ---
元題はKiss is. Hand in hand.(手を繋ごう)の続編です。

不知夜月