手を繋ごう

『Devil May Cry』にナーナが住み込んで三ヶ月が経った。
住人の双子との生活にようやく慣れてきたところ。
家主のダンテは親しみやすく、同居人のバージルは近寄りがたかった。

ナーナはふとカレンダーを見た。
今日は買い物の日。買い物当番はダンテであるが、彼は仕事からまだ帰って来ていない。
(うーん……。しょうがないバージルに頼もうかなぁ……)
正直バージルに頼むのは気が重い。だが一人だと荷物が持ちきれない。

ダンテは気さくだし、親しみやすい人。
バージルは無口だし、鉄仮面だし、よくわからない人。

ナーナは軽く頭をふると、バージルの部屋に向かった。

―――コンコン……。

「バージルいる?」
ノックをし部屋のドアを開けると、バージルは窓際に座り何時ものように読書をしていた。
「ナーナ何か用か?」
顔を上げたバージルのその端正な横顔に見とれてしまい心臓が跳ね上がった。
「あのね、か、買い物に付き合って欲しいのだけど」
勇気を振り絞りバージルに頼んでみる。
「買い物当番はダンテだったと思うが」
「ううっ……」
ダンテが仕事からまだ帰ってこないのをわかってるはすなのに、バージルは意地悪く言う。
「ダンテが……」
「……」
「ダンテがまだ帰って来なくて、私一人じゃ荷物が持ちきれないから……」
冷たいバージルの態度に、何だか悲しくなってくる。
「バージル……お願い、します……」
消え入りそうな、今にも泣き出しそうなナーナの表情が可愛いくて、バージルはつい虐めたくなるのだ。
「分かった」
バージルは読んでいた本をパタンと閉じて立ち上がる。
「本当に!?」
ナーナの悲しそうな表情が一転笑顔に変わる。くるくる変わるナーナの表情はいくら見ていて飽きない。
「すぐ行くから、お前も用意しろ」
「はい」
ナーナはぺこり頭を下げバージルの部屋を後にした。

やっぱりバージルは苦手。
いつも無表情で、怖い……。


太陽は既に傾き、空はオレンジ色からコバルトブルー色へと変化し始めていた。
大通りは人で溢れていた。
買い物を終えた二人。並んで歩くはずもなく、ナーナはバージルを見失わないように一生懸命に彼を追いかけていた。
(もう〜!どうしてバージルは一人で行っちゃうのよ !!)
人込みをスタスタと擦り抜けて行くバージルに、ダンテなら歩幅を合わせてくれるのにとついそんな事を考えてしまった。

……バージルは優しくない……。

「あ、あれ?」
ふと前を見る。バージルの姿はない。どうやら考え事をしていたためにバージル見失ったようだ。
「……ここは、どこ?」
そして人込みに流されたことを知らず、ナーナは全く知らない場所にいた。

なんとか元の場所に戻ろうと、歩き回る
が、歩けば歩く程迷ってしまう。しかもここはスラム街。『Devil May Cry』のあるスラム街とは別の場所だ。
「お姉さん一人?」
「こんな所に一人でくるなんてなあ?」
「恐いもん知らずだ、お嬢さんは?」
柄の悪い男達がナーナを取り囲んだ。
「こんな可愛いお嬢さんが迷い込むなんて、俺達ラッキーだぜ」
三人の男達のうち身体に入れ墨のある大柄な男が、ナーナの顎をグイと上に向けさせた。
「一度スラムに入り込んだら、二度と出れないぜ?」
クックッと男達はいやらしく笑う。
「嫌っ!!」
パシッとナーナは男の手を払い落とした。
「〜〜ヒュー〜〜♪」
ニット帽を深く被った小柄な男が、感心したように口笛を吹く。
「ふん……気の強い女は、嫌いじゃないぜ?」
体格のいい男はそう言って残りの二人に合図を送り、
「……何するのよ!!」
ナーナは男二人に挟まれ袋小路に連れて行かれた。

「キャァ!!」
ドサッと荷物のようにナーナは地面に叩きつけられる。
「……あ……ぁ……ぁ……」
ここは袋小路。ナーナの後ろに逃げ道はなく、叩きつけられた身体の痛さと恐怖に声が、言葉が出ない。
「悲鳴を上げても無駄だからな」
男達が一歩一歩近づいてくる。
ナーナは地面に倒れ込んだままだった。男達はナーナを取り囲み、二人の男が手足を押さえつけた。
(……襲われる!!)
ナーナの本能が彼女にそう告げる。
「ヒッヒッヒッ……」
ナーナの口にタオルが詰め込まれ、声を出させないようにする。
「……ウ……ンン……ウ……」
「逃げられないぜ?」
「ン……ウッ……ウ!」
ナーナはなんとか逃げようと身体を動かそうとする。だが男達に押さえつけられている為動けすことは出来ず助けを呼ぶ声も出せない。
「いいねぇ〜、その涙を浮かべて脅えている表情そそるぜ?」
「諦めな」
男はナーナのスカートの中に手を入れた。ゴツゴツした男の手がスカートの中をはい回り、そしてその手がナーナの下着にかかった。

(もうダメ……)

ナーナが諦めかけた、その時だった。

「グハッ!!」
「……グエッ……!」
蛙の潰れたような声がしたかと思ったらら、ドサッと何かが倒れ込む音がした。
それと同時に身体に自由が戻る。
「貴様らは、何をしているんだ!?」
低い声色が静かな怒りを宿していた。
「……ぐっ……き、さま……!!」
恐る恐る目を開けて見ると、そこにバージルが立っていた。
ナーナの上に覆いかぶさっていた男がバージルに首元を掴まれ宙に浮いている。
「何をしているかと聞いている!!」
「くっ……く、くるし……い」
バージルの腕に更に力が込められ、凍てつくような青い瞳が男を睨み付ける。
「俺の女に手を出したこと、後悔するがいい!?」
バージルは男を地面に叩きつけ、更に蹴りを入れ、執拗に痛めつけた。

「………」
生きているのか気絶をしているだけなのか、ピクリとも男は動かなくなった。
「ナーナ」
冷たいバージルの表情は何の感情も読み取れない。
だが次の瞬間、スッとバージルの手がナーナの前に出された。
「……バージル……?」
「いいから立ち上がれ」
そう言ってバージルはナーナから顔を背ける。

てっきり、もの凄く怒られると、怒鳴られると思ったのに!

涙を拭いながらナーナは差し出されたバージルの手を借り立ち上がった。
「バージルありがとう」
「……」
バージルは何も言わない。
でも触れた手が温かい。
大きくてがっしりした硬い手だけど、バージルの手が温かかった。
「あっ……」
ナーナはハッとして手を離そうとするが、バージルがその手をしっかり握って離さないでいる。
「お前はのろまだから、またはぐれたら困る。本当に危なっかしい奴だからな」
「バージル……」
きっとこれは置き去りにして危ない目に合わせてしまったことへの、彼なりの謝罪なのではないか?
きっとそうだと思う。
「もう置いていかないで」
「悪かった」
見上げたバージルの顔が少し赤くて。
それを言ったら夕陽のせいだと言い張るんだろうな。

今まで感じていた『バージルは怖い人』いは、ただの自分の思い込みだった。
本当のバージルはとても優しい。
冷たい表情の下に優しいバージルを見つけた。

それから、バージルとナーナはずっと手を繋いで歩いた。

『Devil May Cry 』への帰り道、二人はバッタリと仕事を終えたダンテと遭遇した。
「なんでバージルとナーナが仲良く手を繋いでるんだ!!」
ダンテはそう言うとナーナの手から小さな買い物袋を奪い、
「俺も、繋ぐ!」
ナーナの空いている手を握った。
「ダ、ダンテ!?」
「いいの、いいの♪」
「ダンテ少しは弁えろ!!」
ダンテが加わり一気に賑やかになる。
ナーナはそっとバージルを見つめた。
ナーナの頭上では、バージルとダンテが何やら言い争っている。
だがほんの一瞬、バージルとナーナの視線が交錯した。
ナーナは、バージルと繋いでる手にそっと力を込める。
『ありがとう』と感謝の気持ちをその手に込めると、バージルの手が優しく握り返してきた。

バージルは優しくない。
ううん、バージルは優しい。
きっと明日からは、貴方と普通に過ごせるよね?
そして、いつか。
いつか、あの時貴方が言った言葉の意味を聞いてみたい。

ふと空を見上げると、日は既に沈み、空には星が輝いていた。


---アトガキ---
元題Hand in Hand。なぜか日本語タイトルにしたくなりました。前サイトの1000hits記念のお話です。

不知夜月