月が見ていた
明日私は日本に帰る。
長かったような短かったようなここでの生活。
悪魔―――この国には未だ存在している異形の者。
彼らに襲われかけた所をバージルに助けられた。
それが私とバージルの出会い。
私は語学留学でこの国を訪れていた。
留学期間は一年。
「お前が気に入った。今からお前は俺の女だ」
抵抗、抗議する間もなく『Devil May Cry』に連れて来られた。
私は一年間恋人兼家政婦として学校に通いながら、ここで生活する事になった。
家主であるバージルの双子の弟ダンテは気さくで…お子様的であるが、すぐに仲良くなる事が出来た。
バージルとダンテと私の奇妙な共同生活が始まった。
開け放れた窓から初夏の風が通り抜けていく。ナーナはバルコニーに出て月を眺めていた。
バージルと出会ったのもこんな綺麗な月の夜。
「はあ……」
明日日本に帰らなければならない。
楽しかった共同生活。
でも、やっぱりバージルと別れるのが一番辛い。
「なに溜息をついてるのだ?」
気がつくとバージルが隣にいた。
「明日なんだって思うと……ね」
「そう、か」
「バージル?」
「……黙れ……」
バージルはナーナを抱きしめると唇を重ねた。
バージルに出会って知った気持ち。
誰かを想う切ない気持ち。
誰かを想う悲しい気持ち
誰かを想う愛しい気持ち
貴方を、愛しています――――。
「ナーナ」
「わわあ!!」
気がつくとバージルのドアップ。
もしかして、私、押し倒されてる?
「何故目を逸らす?」
「だだだだ……って、恥ずかしい!!」
「いいから俺を見ろ!」
バージルはナーナの頬を両手で挟んだ。
か、顔が動かせない!!
「バージル?」
アイスブルーの瞳がナーナを優しく見つめる。
「恥ずかしがるな。次はいつ会えるか分からない……」
「……」
「少しでも長くナーナ見つめていたいんだ……」
涙が溢れて止まらない。
バージルはそっと唇で涙を拭う。
「この時間だけは俺を見てくれ。そして、俺を感じてくれ……」
ゆっくりと二人の唇が重なる。
月明かりの下で二つの影が重なる。
最後の二人の時間。
バージルの温もりに包まれて、私は彼の腕の中で眠った。
明日が来なければ、この瞬間が止まればいいのに……。
あれから5年の月日は流れ、私は通訳として忙しい毎日を送っている。
「お疲れ様です」
今日は定時に仕事が終わった。
かなり珍しい年に何回あるかないかの事だ。
ラッシュアワーを人の流れと反対に歩き
家路へと急ぐ。
流れに逆らっているかのような錯覚に通りすぎてゆく想いがふと胸に去来する。
家路への足を止めて空を見上げた。
「……綺麗な月……」
夜空を煌々と照らす月。
こうやって空を見上げるのは何年ぶりだろう?
月にバージルの面影が重なる
この5年。彼を忘れた事はなかった。
彼を想うと胸が苦しく切ない気持ちに支配される。
バージルとダンテとの夢のような日々。
「バージル……会いたいよ……」
涙で月が霞む。
もう会えない人。
会ってはいけない人。
私とバージルでは生きている世界が違うのだから……。
「Excuse me?」
不意に後ろから声をかけられナーナは慌てて涙を拭った。
「Are you crying?」
「……」
「Did you have something a sad thing?」
男の人は、心配そうに泣いてるのかと訊ねてくる。
「There is nothing.」
何でもないですと言いながらナーナは声の方へ振り向いた。
「!?」
息がとまりそうな程の衝撃が身体にはしる。
「Tears do not suit you.」
青い瞳がナーナを見つめている。
彼の指がナーナの涙を拭う。
「あ……」
夢を見ているの?
目の前に立っている男の人は、黒いタートルにスラックスという出で立ち。
銀色の髪は月光の輝きを纏い、アイスブルーの瞳が優しく見つめている。
「バージル!!」
「ナーナ!!」
ナーナはバージルに抱きついた。
バージルはナーナをしっかりと抱き締める。
人混みの中、二人はお互いの存在を確かめ合うように、抱き合い唇を重ねた。
初夏の夜風が二人を優しく包み込む。
あの日二人で見た変わる事のない月は、
二人を優しく包み込んだ――――。
Tears do not suit you.
You must shed tears and must be lovelier than faces that are laughing faces,
and show the highest smile.
---アトガキ---
元題は The moon saw. 主役は月です。
さいと、4000hitsのお話でした。