青いコート

バージルの青いコート。
一年中着ているコート。
真夏に汗一つかかないで着ているコート。

バージルにとても似合っているけど、何で裏地は赤いのだろう?

気になる……。


ナーナはバージルから預かった青いコートを羽織ってみた。

彼は今シャワーを浴びている。

「おっきいなあ……」
ダボダボの袖。
床に引きずる位長い丈。
鏡で見ると、まるでコートが歩いているようだ。
「バージルの匂いだ……」
ふわりと香る大好きな人の匂いは甘いムスク。

香水なんかつけて仕事に支障がないのか?

一度彼に尋ねた事があるが、バージルには愚問だと質問を一蹴されていた。

バージルが気にしていないならいいのだけど。

「いい匂いだな」
この匂いをかぐと安心する。
まるでバージルに抱かれているように感じるから。

「何をしているんだ?」
「きゃあ!」
いつの間にそこにいたのか?
バージルは自分の部屋の戸口に立って、ナーナの姿を見ていた。
「バ、バージル……」
頬を赤く染めながらナーナは驚いた表情でバージルを見つめる。

彼の瞳は笑っていた。

「俺のコートを着て何をしているんだ?」
「えーと……」
一歩一歩近付いて来るバージルに、後ずさるナーナ。

何も悪い事をしていないのに!

バージルが近付いて来ると、身体が反射的に逃げてしまう。
「……何故逃げる?」
「何となく、かな……」
近付くバージル。
逃げる?ナーナ
「なるほどな……」
近付くバージル。
「あ……」
ナーナの後ろに逃げる道はなかった。
バージルは壁に両手を付く。
「もう逃げられないぞ」
青い瞳が笑っている。
まるで悪戯っ子の様な表情のバージル。
ナーナの大好きな表情。
「わあぁ―――」
いきなり身体が宙に浮いたかと思うと、次の瞬間柔らかい感触。
恐る恐る目を開けてみると、ナーナはバージル見上げていた。
「なななな……何を……」
風呂上がりのバージル。
重力に逆らえない銀色の髪は全て垂れ下がり、水滴がナーナの頬を濡らしていく。
バージルの姿はタオルを首に掛け、上半身は裸である。

すっごく嫌〜な予感がする。

「ナーナが俺のコートを着ている姿に欲情した」
「……はい???」
「いいから、おとなしく抱かれろ!」
「☆〇◎△×……!!!」
ナーナの抗議は、バージルの唇に封じ込められてしまった。
お構いなしにナーナの身体を愛撫していく。

銀髪が肌に触れると、身体がゾクリと震える。

ああ、自分もバージルを待っていたんだ……。

バージルの温もりを感じながら、ナーナは彼に身を委ねた。


数時間後。

ようやくバージルから開放されたナーナ。
もう身体はグッタリだ。
「ねぇバージル?聞きたい事があるんだけど……」
「何だ?」
バージルの腕の中でナーナは疑問に思っていたことを訊ねる。
「あのねバージルのコートなんだけど」
「?」
「バージルのコートは、表は青いのに裏地はどうして赤いの?」
「は?」
いきなりナーナの口から飛び出した、突拍子ない質問。
「バージルって言ったら青い色や寒色が多いよね」
「まあな。明るい色は余り好きではない」
「じゃあどうして赤いの?」
「ナーナはどう思うんだ?」
バージルはナーナの頭を撫でている。
「バージルって青いイメージ、そう冷たいってイメージがあるんだけど」
ナーナはバージルを見上げる。
「バージルの本質は赤い色。激情、情熱を持っていて、それを抑える為に青い色を全面に押し出しているのではないかと考えてみました」
「なるほどな……」
「えっ??バージル?」
バージルはナーナをするり、自分の下に組み敷く。
「もしかすると俺の本質は激情型で、無意識に隠したいから青い色を纏っているのかもしれない」
バージルはニヤリと笑った。
「ねぇバージル?」
「何だ?」
ナーナは腕を伸ばし、バージルを抱きしめる。
「私には隠さないで、本当のあなたを見せてね」
ナーナはニッコリと笑う。

大好きなバージル。
冷徹なのも、激情なのもすべて『あなた』だから。
本当のあなたを私にだけ。

バージルは優しくナーナに口づけた。

バージルの青いコート。
本当の事はバージルにしか分からない。

「ナーナの前では、俺は俺でいられる」

そう言って、笑ったバージルの青い瞳が、とても優しかった。


---アトガキ---
元題は Vergil's Blue Coat. コートの裏の赤が気になって、なんとなく書いたお話。

不知夜月