夏祭り

8月 日本。

街中にある神社の参道には提灯がぶら下げられ、様々な出店が並んでいる。
陽気な祭囃子が流れている。
今日はこの神社の夏祭りである。

人で賑わう参道で、一際目を引くカップルがいた。
擦れ違う人達が振り向き溜息を漏らす。
「私達ジロジロ見られているわね?」
さっきから擦れ違う人達が見ていくのに、ナーナは少々ウンザリした様子だ。
「お前が綺麗だから皆見てるんだ。見せたい奴には見せておけ」
ギザな台詞をサラリと言ってのけるバージル。
「バ、バージル!」
バージルの言葉に頬を紅く染めるナーナが堪らなく可愛い。
薄い紫の浴衣がよく似合っている。
「バージルも浴衣よく似合ってる。すごくカッコいいよ!」
青い色。バージルの瞳と同じ色の浴衣。彼の銀色の髪に映えている。
「私ね、夏祭りを好きな人と浴衣で歩くのが夢だったの」
笑いながらナーナは、バージルに絡めている腕に力を込めた。
「歩こうバージル!」
「ああ、そうだな」
そう言って笑ったナーナの笑顔が堪らなくて、バージルはナーナの唇を素早く奪った。
「!!」
唇が離れた後、驚いた表情でバージルを見るナーナの顔は真っ赤。
「こ、公衆の面前で……」
「何だ?もっとして欲しいのか」
「馬鹿!!」
バージルの言葉に、ナーナは茹蛸のように更に真っ赤になっていた。

それからバージルはナーナと共に、出店を見て回った。

金魚掬いをしたり、射的をしたり。

バージルには見るもの、遊戯するもの全てが初めての経験だった。
そしてそれらはバージルにとって、非常に興味をそそられるものであった。

二人は見物客で賑わっている参道から外れて、河原を歩いていた。
「綺麗だね」
「そうだな」
見上げる夜空には、色鮮やかな花火が打ち上げられている。
バージルとナーナは立ち止まり、花火を鑑賞する事にした。
夏祭りのメインイベントでもある花火大会。
ナーナの目当ては実はこれだった。

夜空を明るく彩る花火がナーナの横顔を照らす。
花火を見上げるナーナの横顔がとても綺麗で、バージルは見とれてしまった。
「私の顔に、何かついてる?」
頬をうっすらと紅く染めながら、バージルの視線に気付いたのか黒い瞳が見つめてくる。
「……」
「あ……」
バージルは何も言わずに組んでいた腕を解き、後ろからナーナをそっと抱きしめた。腕の中にすっぽり収まるナーナ。
「バージル?」
「じっとしてろ」
バージルの言葉にコクンと頷くナーナ。

触れ合った身体が温かかった。

やがて、夢のような楽しい時間は終わりを迎える。
フィナーレに向け花火が盛大に、華麗に、夜空に大輪の花を咲かせる。
「バージル」
不意に腕から抜け出し、バージルと向かい合う様にナーナは立つ。
黒い瞳がじっとバージルを見上げている。
「どうし……!!」
「……」
バージルの言葉は最後まで発せられなかった。
目の前にあるのはナーナの顔。重なった柔らかい唇。
祭のフィナーレを飾る大輪の花火が、二人を祝福するかのように頭上で輝いていた。

この神社の夏祭りの最後を飾る花火大会には、ジンクスがあるらしい。

『花火大会最後の花火が消える前にキスしたカップルは、永遠に結ばれる』

帰り道、そんなジンクスがあったのだと照れた様にバージル話す。
初めてのナーナからの口づけの理由。

そんなジンクスも悪くない。

バージルは心の中でそっと思った。

「来年もバージルと夏祭りに来たいな」
ポツリ呟いたナーナ。
手を繋いて歩く帰り道。
「来年と言わず、毎年夏祭りに来ればいい」
繋いだ手にそっと力を込める。
ナーナの温かい手が、ギュッとバージルの手を握り返した。
「ナーナ?」
「なあに、バージル?」
見上げるナーナの額に、バージルはそっとキスをする。

いつまでも一緒にいられますように。

二人の願いが交差する。

現在そして未来まで。

ナーナに永遠の愛を誓おう――――。


---アトガキ---
サイト相互のお礼に書いたお話です。
浴衣、花火、神社。好きな人と行くのを憧れてました。

不知夜月