夏の終わり

屋根の上に腰を下ろし、ナーナは空を眺めていた。
肌に感じる微風が、夏の終わりを告げていた。
漆黒の空には星の大海がどこまでも続いている。
一日の終わりこの場所で夜空を眺めるのがナーナの日課だった。

ナーナはここ、『Devil May Cry』に居候している。
ナーナはバージル、ダンテと同じデビルハンターだったが、ある悪魔との戦いで傷付き殺されそうになっていた所をバージルに助けられた。

その縁でここにいる。

バージルとの出会いは強烈だった。

目が覚めた時は見知らぬ部屋のベットの上で、傷の手当てまでされていた。
そして目が覚めたナーナを見て一言、
「お前、この仕事を辞めろ!」
いきなりそう言ってきたのは、青い瞳に珍しい銀色の髪を持った男の人だった。
無表情なのに、紡ぎ出される言葉は冷たくも何故か温かさを感じる。

初対面なのに、どうしてなの……?

そう思った時から、私の恋は始まっていた。

……。

「ナーナ!?」
聞き慣れた声にハッと我に返ると、窓から身を乗り出し心配そうな表情(かお)でナーナを見つめるバージルがいた。
「どうしたのバージル?」
「どうしたの?じゃないだろう!?何度名を呼んでも返事が無いからな」
「ごめんなさい!!」
心配したと彼は付け加えた。
「それよりこんな時間にどうしたの?」
「実は、こんな物を貰ってな……」
そう言ってバージルが取り出したのは、
「これって、花火だ!」
透明な円柱型の袋。中には沢山の花火が入っている。
「打ち上げ花火に、鼠花火に、沢山花火が入ってるよ!!」
バージルが貰って来たのは、花火のDXパックだった。
瞳を輝かせてそれを見つめるナーナの、そんな彼女の可愛い姿に表情が緩む。
「よければ、今から散歩を兼ねて花火をしに行かないか?」
「うん!行く!!」
ナーナはニッコリ笑ってバージルに抱きついた。

時計の針は深夜1:00を回っていた。

ガツン……コツン……。

スラム街に響くのは二人の足音。
夜の街は、昼間見る街とは全く別の顔をしている。
いつもは恐いスラム街だが今はどこか優しい感じがする。
「ナーナは楽しそうだな」
「夜の街って不思議だよね」
雲一つない漆黒の空に輝いている丸い月。
二つの影が路上に映し出しされる。
手を繋いで歩く二人の影は、幸せそうに見えた。
何となくうきうきしてしまう。
「ナーナは、本当に夜の散歩が好きだな」
「バージルと歩くから楽しいのよ!」
繋いだ手を大きく振りながら、ナーナははしゃいでいた。
「どこか行きたい場所があるか?」
「騒いでも迷惑にならなくて、広くて景色のいい所かな?」
ナーナの言葉にバージルは『欲張りだな』と苦笑いしていた。


二人が辿り着いたのは、街外れにある小高い丘の上にある広場だった。

「見てバージル!マンハッタンが一望出来るよ!!」
二人の眼前には、高層ビル群のネオンが広がっていた。キラキラと輝き、それはまるで光の海のようだ。
二人は暫くその景色に目を奪われていた。

「綺麗だ」
「うん……でも物寂しい」
夜空に打ち上げられた花火を見上げながら、ナーナは呟く。
「物寂しい?」
その言葉にバージルが不思議な表情(かお)をした。
「どう表現していいのか分からないけど、昔から花火を見ていると胸がキュッと締め付けられると言うか、苦しいって言うか……」
打ち上げ花火が終わると、静寂が辺りを包み込む。
ナーナの言葉にバージルはただ黙って後ろから抱きしめた。

パチパチ……。

ナーナの手には線香花火が握られていた。
オレンジ色の儚い火花が、パチパチと音を立てて花を咲かせている。
バージルはナーナの頭上から線香花火を見つめていた。
「ねぇバージル。私達が初めて出会った時の事を覚えている?」
「どうした?急に」
バージルはナーナの頭を優しく撫でている。
「さっきね、ふとバージルとの出会いを思い出していたの」
ナーナの言葉にバージルは何かを思い出したのか、苦笑いをしていた。
「初対面でいきなり『辞めろ!』だもん。あれはびっくりしたな」
その後でナーナが文句を言うとバージルから信じられない言葉が返ってきた。
「お前の面倒は俺が見る。何もかも心配するな」
「はい!??」
何て強烈な出会いだったのだろうか!?
その言葉を信じてバージルについて来たナーナは、バージルに大切にされて今に至る。
「よく初対面で俺の言葉を信じたな」
自分で言うのも何だが。
「多分私ね、バージルに助けられた時にはもたいあなたに恋をしていたのよ』」
首を軽く曲げてバージルにもたれ掛かる。
バージルはナーナの頬に唇を寄せた。

ポトリ……。

線香花火の火球が地面に落ちる。

「It is transient.(儚い、か……)」
「バージル?」
「ナーナがさっき物寂しいと言っていたのが、何となく分かった」


ナーナは笑み最後の一本の線香花火をバージルに差し出す。
「じゃあ、最後は二人で」
「ああ、そうだな」

パチパチ……パチパチ……。

オレンジ色の光を放ち控え目ながらも火花を散らす線香花火。

ナーナの手の甲に重なるように、バージルの手が添えられている。
温かくて大きな手。

これが散ったら楽しい時間は終わってしまう。
淋しくてどこか切なくもどかしい想い。

「どうしたナーナ?」
ナーナが俯いているのに気が付いたバージルは、もう片方の腕でナーナの身体を優しく抱きしめる。
「終わっちゃうね……」
火球がゆっくりと地面に落ちる。
胸に去来する切なさを二人は感じていた。

静寂が訪れる。

バージルは身体を離しナーナの隣に立った。
「バージル?」
見上げるナーナとバージル視線が重なる。
青い綺麗な瞳に、吸い込まれそうで…
「私、バージルの事が大好きだよ」
屈託のない笑顔でバージルを見つめるナーナ。
バージルもつられて柔らかい表情(かお)になる。

倒れ込んでいるナーナを見付けた時から、俺はナーナに恋していたのかもしれない。

バージルはナーナの顎に手を添えると、顔を近付けた。
「愛しているナーナ。いつまでも俺の側に」

重なる二つの影。
二人の間を風が擦り抜けて行く。

夏の名残を感じる風は、微かに秋の匂いがした。



---アトガキ---
元題は End of summer. サイトの相互お礼に書いたお話です。この時夏だったので、夏の話を書いていた記憶が。

不知夜月