クリスマスのその前に

11月の最終日曜日。
面倒な依頼を済ませて約一ヶ月ぶりの我が家に帰宅した。
チャイムを鳴らしても彼女であるナーナは一向に出て来ない。
眠ってでもいるのかと思いながら、バージルは鍵を開け中に入った。
「帰ったぞ」
だが返事はなかった。

バージルのデビルハンターとしての仕事にかかる日数はまちまちで、いつ帰ってくるのか分からない。

だから帰りを待っていろという事は言わなかった。

だが出迎えがないのもつまらないとバージルは思っていた。

「ただいま。バージル?」

それから一時間程経った頃、ナーナは帰宅した。
「どこに行っていた」
リビングに入ると不機嫌そうな声がかけられる。
「日曜ミサに出て、あと買い物を」
敬虔なクリスチャンであるナーナは、毎週日曜日の礼拝は欠かさない。教会の行事に奨んで参加している。
それについてバージルは快く思っていなかったが、口には出していない。

神を信仰して心のよりどころにするという事が分からない。
かなり前だが自分は神になるんだと低級悪魔と契約し、結局滅んだ男を目の当たりにした。

バージルにとって信じるのは己自身なのだから……。

「それは?」
テーブルの上に置かれた袋。
「ああこれは」
ナーナは袋から品物を取り出す。

出てきたのはたくさんの赤い小さな箱。飴玉やチョコレート等が入りそうな箱に一つ一つに金色の数字が描かれていた。数字の1日から24日。
「これはねアドベントカレンダーっていって」
ナーナは箱を一つずつ積み上げクリスマスツリーのような形にする。
「12月25日まで1日つずつ開けてゆくのよ。何が出てくるかワクワクしない?」
「なるほどな。で、その箱の中には何が入ってるんだ」
「チョコレートとか飴玉とかメッセージカードとか。開けてみないと分からないから楽しいんだよ」
そう言って子供のようにあどけなく笑うナーナを、バージルは抱きしめた。
「信仰もけっこうな事だが」
困ったような表情でバージルはナーナを見る。
「ごめんなさい。そんなつもりはなかったのだけど」
ナーナはバージルの言わんとする事を理解して、彼の瞳を見つめ返した。
それから柔らかく微笑んで。
「お帰りなさいバージル」
「ああ。ただいま」
本当に些細な事だけど、二人にとっては大切な儀式。

「バージルの仕事、ハッキリと帰宅する日が分かればいいのにね」
「まあ無理だ。あいつらは神出鬼没だからな」
バージルも優しい笑みを浮かべて、ポケットから二枚のチケットを出した。
「ちょっと早いが休暇を取った。クリスマスが終わるまで休みだ」
それは航空券で、そして行き先はフィンランド。

フィンランドはナーナの大切な想いのある土地で、行きたくても、行ってはいけない場所だと心に決めていた。

勿論、バージルもそれを知っている。

「もう…良いのかなあ?」
ナーナはぽつりと呟く。

あれから、もう3年。

「踏み出す勇気も必要じゃないか?」
「……」

賑やかなクリスマスマーケットは北欧最大で。そして白いヒゲのサンタクロースとの楽しい時間。夜空を彩るオーロラ。

思い出すと懐かしさに胸が躍り出す。

「バージル……ありがとう」

ナーナは精一杯背伸びをして、バージルは屈む。

それから二人は唇を重ねた。


---アトガキ---
3年ぶりに書いたお話です。色々浮気してたのでDMCからは遠ざかってました。
クリスマスではなくクリスマス前の4週間は待降節だったかな?身も心も綺麗にしてキリストを待ち望むそうです。本当かな?

不知夜月