青いあなた

よくある出会いのパターン本屋。
棚にある本を取ろうとしたら見知らぬ男の人と手が触れて……。
そんなドラマみたいな事絶対起こる訳ないと思っていた。
でも、それは起こった。
青いあなたと。
HAPPY END じゃなくてもいい。
あなたと出会えたのが奇跡だから。



ようやく見つけたその本は、店の1番奥の1番上の棚にあった。
側にあった脚立を広げる。これに上ればなんとか取れそうだ。

ギシッ……。

床が軋む音がする。どう見ても年代物の床。棚も木製。置いてある本も古本だけ。慎重に脚立を上るが、どうも安定感が悪い。
「うっ、もう少しで届くのに!!」
脚立の一番上に乗り背伸びをして手を伸ばす。目的の本まであと数センチ。
「くっ!!」
指先を限界まで伸ばし、目的の本に届いた、その時だった。

ガタンッ!!

脚立が傾く。どうやら床が抜けたらしい。
「きゃあ〜〜〜!!」
そのまま下へ落ちていく恐怖にナーナはギュッと目を閉じた。

………あれ?
痛くないし、私何故か宙に浮いいてる?

恐る恐る目を開けると青い瞳がナーナを見ていた。
整った顔立ちの綺麗な男の人。

ん、ちょっと待って?もしかして私抱えられているの!?
……そういえば背中と膝の裏辺りに感触があるような。

気がついたら恥ずかしくて俯いてしまう。顔なんか見れない。
「あ……ありがとうございました」
消え入りそうな小さな声でお礼を言うのがやっとだった。

青い瞳の男はナーナを床に下立たせると、一冊の本を差し出した。
「取ろうとしていた本はこれか?」
男は不思議そうな顔をしている。
それもそのはず。普通の女の子が見るようなタイトルの本じゃないから。
「すみません。ありがとうございます」
そんな事を思いながら本を受け取った。
「……」
だが男の視線はナーナから離れない。

(なんかジーーッと見られているのは気のせいかしら?)

「あのう……」
「その本、」
「えっ?この本がどうかしたんですか?」
「お前が読むのか?」
お前みたいな小娘が読めるのか?と言われているみたいだ。
「私みたいな小娘が読むのは何かもんだいでも?」
男の言葉にムッとしながらナーナは言葉を返した。
「いや、そういう意味ではなく」
「じゃあどんな意味ですか?」
男は少し困ったような表情になる。
「その本は古代言語の中でも上級の言語で書かれている。普通の人間ではわからないはずだが」
「どうして……」
ナーナは言葉が続かない。
何故この本の内容をこの人は知っているのだろうか?
「俺は古代遺跡を巡る為、様々な古代言語の本を探している」
男の手には何冊も古本がある。それも古代遺跡や古代言語の本ばかり。
「おと前は上級古代言語が読めるのか?」
男が静かに訊ねてきた。

もしかしてこの本が必要なのかな?
でもこれは私にとっても大切な物。
だけどこの人にとっても必要な物に思える。

「この本が必要なのですか?」
訊ねられた事に答えると説明がややこしいのでナーナは話を変える。
いきなり核心をつかれたのか、男の表情が変わった。

やけに空気が冷たい……。

「俺が必要と言えばどうするのだ?」
「私もずっとこの本が必要でずっと探していました。でもあなたの方がより必要としてるみたいですね」
「?」
「どうぞ使って下さい。あなたには助けて頂きましたから」
ナーナは男に本を差し出した。
「本当にいいのか?」
「はい。あなたが使い終わったら私に返して頂けますか?」
「わかった。約束しよう」
男はそれを受け取った。
「連絡……」
「えっ?」
「連絡先は」
「あっ!?」
男の言葉にナーナは慌てて電話番号を紙に書いて渡す。
「ここに連絡すればいいんだな」
「はい……あのう?」
「何だ?」
「名前を、名前を教えて頂けますか?私は七瀬ナーナと言います」
「バージルだ」

これがバージルとの出会いだった。


それから間もなくしてバージルから連絡が入りナーナは本を返して貰った。
そして二人はこれを機に度々会うようになった。

さすがに上級言語なんてナーナも読むのに一苦労していた。だからバージルに連絡するのはわからない言語を教えて貰うという事で。
勿論これは建前。
本音は年頃の女の子ですからね。

バージルの仕事はデビルハンター。
双子の弟さんと悪魔退治をしているそう。だから古い文献が必要だったんだと
理解した。
それにしてもバージルはかなりの美形だと思う。銀色の髪に青い瞳。端正な顔立ち。おまけに長身。ファッション誌のモデルなんかより断然カッコイイ!
でもバージルの欠点は、悪魔退治と弟さんと古代文献の解読しか興味がないみたい。

「どうした?」
ふと別の文献を読んでいたバージルが顔を上げる。
「あっ、ううん何でもない」
ナーナは慌て視線を本に戻した。
あービックリした。まさか『あなたに見とれてました』なんて言えない。

こんな風に私達は過ごしている。
恋人同士じゃないから当たり前。
でもこんな普通の時間が妙に心地良い。
ずっとこんな時間が続けばと願った。


だが平和な時間を壊すように、それは突然やってきた――――。

不知夜月