青いあなた�E*

男は床に激しく叩きつけられ、閻魔刀が身体を切り刻む。
「ぐあぁぁ―――!!」
既に男はボロ雑巾のようだった。
「とどめだ――――!!」
空中に男を切り上げ、自分もジャンプをし、閻魔刀を渾身の力で振り下ろす。
バージルの渾身の一撃が勝負を決めた。
それと同時に、男の中の『Crystal』が粉々に砕け散る。
男の胸部には大きな穴が空いていた。
「あ……ぅあ……」
床の上で、男の半身がピクピクと震えている。バージルは閻魔刀を鞘におさめた。
男にもう立ち上がる力も、戦う力も残っていなかった。

バージルはふとナーナを見た。
ナーナは男に近寄ろうとしている。
ナーナの側で黒髪の女性が微笑みながら消えていくのを、バージルは見た。
「ナーナ!」
バージルがナーナに近寄ろうとした、その時だった。

ゴゴゴゴゴ――――――ッ!!

洋館が轟音を立てて崩壊し始める。
バージルと男の強大な魔力に耐え切れなくなっていたのだ。
床が上下に激しく揺れ動き、天井が、柱が、瞬く間に崩れ落ちる。
「ナーナ!!早くこちらへ!!」
バージルは手を差し出すが、ナーナはその場所から動かない。
男の側から離れようとしなかった。
「ナーナ!!」
「バージル」
バージルとナーナは互いに見つめ合った。

崩れ落ちる洋館。
激しく燃え盛る柱。

二人の間は完全に遮られた。

「バージル、助けに来てくれてありがとう!」
ナーナは微笑んでいた。
「ナーナ?」
「彼は私の父親。だから彼の最期は私が……」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ!?」
ナーナの手には、男の銃が握られていた。
「その手を自ら汚すのか!馬鹿なことをするな!!」
「バージル、早く外へ逃げて!!もうすぐこの館は崩壊するわ!!」
ナーナの言葉通り、洋館はもう限界に達していた。既に半分以上崩壊し、その姿を留めていない。
バージルは叫んだ。
「ナーナ!何を言ってるんだ!!早くこっちへこい!!!」
激しい炎が完全に二人の間を遮る。
呼吸すらまともに出来ない。
「バージル……もう遅いよ……」
「ナーナ……?」
辛うじて息のある男の身体に、ナーナは小型の銃を押し当てた。
「さようならバージル。貴方が好きだった。ありがとう……」
「ナーナ―――っ!!」

――――――!

銃声が鳴り響いた。
それと同時に、崩壊のカウントダウンが始まる。
バージルは崩れ落ちる洋館の中を、出口に向かって走っていた。

ナーナは微笑んでいた。
それは哀しい程綺麗な微笑みだった。

バージルが洋館から脱出した直後、洋館は轟音を立てて崩壊した。まさに間一髪だった。
静寂が辺りを包み込む。バージルの目の前には、ただ瓦礫の山があるばかり。
「……ナーナ……」
そう呟いてみるが、返事はない。
「クソッ!!」
バージルは地面に閻魔刀を力一杯突き刺した。

彼女を救えなかった!
彼女の想いに答える事すら出来なかった!

後悔ばかりが心に浮かんでくる。

「……」

バージルの瞳に光る物があった。

――――Devils never cry.

彼の弟がよく使う言葉。
悪魔は泣かない。

ようやくその意味がわかった気がする。
自分の中にこんな感情があったとは!

「ナーナ?俺はお前を……」

言いかけた言葉は、最後まで発せられなかった。心の奥深く大切にしまい込む。

空を見上げた。雲一つない星が煌めく夜空は、哀しい程澄んでいた。

地面に突き刺した閻魔刀を鞘に戻すと、バージルはゆっくり歩き出した。

彼は、振り向かなかった――――。

不知夜月