ダンテ編 Act.2
無理矢理引き摺られ連れ込まれたのは、体育教官室の中にある小部屋だった。
部屋の中はテーブルと冷蔵庫、流しがあり、体育教官達の憩いの場である。
「痛い……」
「いいから座れ!」
強く掴まれた腕を摩りながら言われた通りに椅子に座るナーナは、明らかに不機嫌だった。
自分に負けず劣らず不機嫌そうなナーナの表情に可笑しさが込み上げてくる。
「悪かったな。まあこれでも飲んで機嫌直してくれよ。可愛い顔が台なしだぜ」
ダンテがいつもの雰囲気に戻ったのを感じて、ナーナもいつもの口調になった。
「怪しげな薬なんか入ってないよね?」
ナーナは出されたコーヒーを怪訝そうな顔で覗き込む。
「ったくお前は俺を何だと思ってるんだ?俺は聖職者だぞ」
コーヒーを片手にダンテはナーナの隣に座った。
「その言葉『性職者』の間違いなんじゃないの?あっ、このコーヒー飲んで眠くなったら教育委員会に訴えるからね?」
「本当にお前は捻くれてるな……」
「ダンテ先生だけね」
ナーナは悪びれもせずにそう言うと、コーヒーを一口飲んだ。
口の中に広がる豊潤なコクと香り。
「……ったく」
ダンテは溜息をついてナーナの横顔を見つめた。
長い睫毛、透き通るような白い肌。
ダンテはナーナに好意を持っていた。だが、彼女が好意を持っているのは双子の兄バージルだ。
「先生達はどうして双子なのに性格似てないの?」
「双子だからって全て似ていてたまるか!それよりバージルの事ばっか聞くな」
不意にダンテが真顔になる。その表情に胸がトクンと騒ぐ。
「お前は!?」
「きゃっ!!」
ダンテはナーナの肩を掴み、強引に自分の方へと向かせた。
「やだ先生……何真面目な顔して……」
まっすぐに自分を見つめる蒼氷の瞳。
「俺はバージルとは違う!あいつと俺を比べるな!?」
「先生……」
それは、初めて見るダンテの真剣な表情だった。
「お前は何故バージルと俺を比較するんだ?何故本当の俺を見ない!?」
「っ……!!」
肩にダンテの爪が食い込む。
ガタンッ!!
二人が椅子から転げ落ちる音が部屋中に響き渡った。
「ちょ、ちょっと先生!?」
「黙れ……」
床に押し倒されダンテを見上げる形になったナーナ。ダンテは馬乗りになっていた。
先生が、恐い…………。
何も言わずにただまっすぐに見つめているダンテに、ナーナは恐怖と戸惑いを感じていた。
「先生やっ!!」
ダンテから逃れようと必死にもがき暴れるが、ガッチリと押さえ込まれていてどうにもならない。
力の差は歴然で、どうあがこうが成人男性の力にはかなわなかった。
「大人しくしろ!!」
「!!」
ナーナの身体がビクッと震える。
今にも泣き出してしまいそうな表情だった。
――――身体は大人びていても、やっぱりガキだな。
そう思いながらダンテは、改めてナーナを見つめた。
白い透き通るような肌。躍動的な黒い瞳。高い位置で纏められた美しい黒い髪。
ダンテはふとした折に見せる女の色香をナーナに感じていた。
「俺をバージルの双子の弟として見るな!俺自身を見てくれ!!」
ダンテはグッと顔を近付ける。息が触れ合うほどの距離。
「……っ」
ナーナは瞳を大きく見開く。ダンテは押さえつけている手に更に力を込めた。
「先生ごめんなさい……私、先生を傷付けた」
瞳に涙を浮かべ絞り出すようなナーナの声は震えていた。
「分かればいい。俺はなお前にバージルの弟として見られるのは嫌なんだ」
俺自身を見て欲しい…………。
ダンテは言葉と共に怯えているナーナの唇を奪う。
「ごちそうさま」
「!!!」
身体を離したダンテはニヤリと笑った。
その言葉に何をされたのかようやく理解したナーナは真っ赤になる。
ダンテはそんなナーナを楽しそうに見つめながら、すっかり冷めてしまったコーヒーを口に含んだ。