ダンテ編 Act.6

ナーナは瞳に涙を浮かべて走っていた。一刻も早く体育教官室から、ダンテから離れたかった。

鼓動が早い。
身体が熱い。

ダンテの温もりが身体に残っている。
キスされた事も、自分が流されそうになってしまった事も今は何も考えられなかった。
擦れ違う生徒達が驚いた表情でナーナを見ている。

学園のアイドルが泣いている――――!

忘れ物を取りに部活を抜け出し教室へ向かっていたネロは、クラスメイトのナーナが泣きながらこちらに向かって来るのに気付いた。
(あいつが泣いてる……?)
そう思った時には、反射的にネロはナーナの腕を掴んでいた。
「ナーナ!?」
「!?」
驚いて上げたナーナの頬を涙が濡らしていた。
ネロはそんなナーナの表情にドキッとしてしまう。
「何泣いてんだ?」
「……」
ナーナは直ぐにネロから顔を背けるように俯き、何も答えない。
「ナーナ、何か言えよ!」
「……」
掴んでいる手に力を込める。
「ナーナ!!」
「……っ」
ナーナが顔を顰る。
その時遠くからネロを呼ぶ声がした。
「ネロ?何をしているの!」
声の主は抜け出したネロが戻って来ないのを心配したキリエのものだった。
「……やべっ!!」
一瞬ネロの掴んでいる手が緩む。ナーナはその隙を逃さなかった。
「ごめんなさい……」
手を払いネロの元から走り去る。
「あ、おい!ナーナ!?」
ネロは叫ぶが既にナーナの姿はなかった。
「ネロどうしたの?」
キリエが不思議な顔をして近付いて来る。
「ナーナが……」
「ナーナちゃんがどうしたの?」
「あいつが、泣いていた」
「……」
ナーナの泣き顔が脳裏に焼け付いて離れなかった。
キリエは一瞬表情を曇らせたが、直ぐに何事もなかったかのようにネロを見つめた。

まるでネロの心を見透かすように……。

不知夜月