バージル編 Act.1
Devil's学園で化学の教師をしているバージルは、体育教師のダンテの双子の兄である。
ダンテとは違い、物静かで冷静沈着。そのクールさに生徒の人気は高かった。
バージルは一日の大半を化学準備室で過ごす。独りでいる事を好むバージル。彼が教えているクラスの化学の成績は、ずば抜けて良かった。
「先生、明日の実験の準備なんですが……」
ダンテが受け持つクラス3年1組に、バージルが密に気になっている生徒がいる。
今、目の前にいるナーナだ。
3年1組のクラス委員をしており、成績優秀で人望も厚い。
黒く長い艶やかな髪を高い位置で一つに纏めた、躍動的な黒い瞳が印象的なナーナ。 よくダンテと一緒にいる所を見かける。
クラス委員なので当たり前と言えば当たり前のことなのだが、ダンテといる時には自分といる時とは違う表情をする。
バージルにはそれが何とも気になるのだった。
「……では少し早めに用意をした方がよろしいでしょうか?」
「そうだな、今回は時間がかかるだろうからな」
1枚のプリントをふたりで見つめながら打ち合わせをする。
バージル先生が隣にいる。しかも距離が近い!!
ナーナはドキドキを抑えるのが大変だった。憧れのバージル先生。カッコいいのに浮いた話が1つもない。
少し顔を上げてチラリとバージルの顔を盗み見る。
整った目鼻だちに綺麗な蒼氷色の瞳。
つい見とれてしまう。
「ナーナ、俺の顔に何かついているか?」
「えっ!?」
バージルの声で我にかえる。
チラリと見ていた筈なのだが、どうやらまじまじ彼を見つめていたらしい。
「す、すみません!!」
カアッと顔を赤くしてナーナは俯いた。
こんな時ダンテ先生になら、「先生のカッコいい顔に見とれていたの」なんて軽口をたたけるのだが。
顔を真っ赤に染めて俯くナーナを見つめながら、バージルは内心で笑っていた。
自分より頭ふたつ小さいナーナは、手を伸ばせば触れる事の出来る距離にいて、時々感じる彼女の視線は、自分を真っ直ぐに見つめている。
ナーナは果たして俺を純粋に見ているのか?それとも……?
バージルがナーナに触れようと手を伸ばしたその時、
コンッ、コンッ……。
化学準備室のドアがノックされた。
「バージル先生」
声と共に入って来たのは、Devil's学園で英語を教えているアーカムであった。
左右色の異なる瞳から放たれる鋭い眼光が、ナーナに向けられる。
「アーカム何の用だ?」
バージルは溜息を付きアーカムを見る。
毎回、毎回。何とタイミング良く現れるのか。
「バージル先生私はこれで失礼します」
「ああ、ご苦労だったな」
バージルの言葉に笑顔を向けナーナは化学準備室を出て行った。
――――それにしてもあの噂は本当なのだろうか?
化学準備室から出たナーナは教室に向かって歩き出す。
『バージル先生に浮いた話しが1つも無いのは、アーカム先生と出来ているから』
そんなまことしやかな噂が学園内にはある。
確かに、アーカムが化学準備室に毎日の様に入り浸っているのを、色んな生徒が目撃している。
アーカムが常に側にいる為、生徒達がバージルに近付けないのは事実である。
「それにしてもアーカム先生のあの視線は……」
ナーナは思い出す。オッドアイから放たれる鋭く突き刺すような視線を。
バージルに近付く生徒は、必ず彼の洗礼を受けるのだ。
「バージル先生、アーカム先生が側にいても表情は変わらないんだよね……」
迷惑しているのか。それとも照れ隠しなのか。
「……美しくない!!」
一瞬、エグい想像をしてしまい、ナーナは慌てて首を左右に振る。
「ナーナ?何百面相してんだ?」
「うわぁ!!」
いきなり目の前に現れたダンテを避けきれなくて、ナーナは彼にぶつかった。
「校内で、大胆な奴だ」
ダンテの言葉で自分が彼に抱き着いている事に気が付いた。
「きゃあ―――っ!」
顔を真っ赤に染めながら、慌てて身体を離す。
「どうせなら、人気のない所でしてくれよ」
からかうようにダンテは笑っていた。
「先生のそのプラス思考、とても羨ましいよ……」
ナーナはハーッと溜息をつくと再び歩き出した。