バージル編 Act.4

理系教師の職員会議を終えたバージルは早々に職員室を後にし、体育教官室に向かっていた。
先程の出来事をダンテに問い詰める為である。
「ん?あれは!」
廊下の窓硝子に視線を動かしたバージルは、屋上にいるナーナを見つけた。
肩を震わせ泣いているのが遠目からでも分かる。
「やはり何かあったな……」
逸る気持ちを抑えながら、バージルは屋上へ向かった。

床に座ったナーナ。ほんのりピンク色に染まった頬。
ダンテのあの逆ギレした態度。

双子だから……。
双子特有の勘が何かを告げていた。

屋上へと続く階段を駆け上がったバージルは鉄の扉の前に立つ。深呼吸をひとつするとドアを開けた。

カチャッ……。

金属音が踊り場に響き渡る。
バージルは屋上へと足を踏み入れた。
擦り抜けて行く風が心地良い。
「……いない?」
さっき職員室前から見かけた場所にはナーナはいなかった。
「一体どこにいるんだ」
さほど広くはない屋上を探し回るが見つけることができない。
バージルの焦りと苛立ちが頂点に達した時、不意に風に乗って微かなすすり泣きが聞こえた。
「……」
バージルは声が聞こえる方へ歩いて行く。
ナーナはちょうど死角になっている場所にいた。
コンクリートの上に体育座りをして、顔を膝につけて身体を震わせている 。
「誰…?」
人の気配に気がついたのか、ナーナは顔を上げた。
涙でぼやけた視界の先にバージルの姿があった。
「先、生」
「どうしたんだ?」
バージルはゆっくりと近付くと、ナーナの隣に座った。
ナーナは泣き顔を見られないようにか、再び顔を膝に押し当てた。
「ダンテと何かあったのか?」
「!?」
ダンテと言う単語に、ナーナの身体がビクッと震えるのをバージルは見逃さなかった。
バージルはナーナの頭を優しく撫でる。大きくて、温かいバージルの手。ナーナはまた泣きたくなった。

「ダンテと何があったのか、よければ話してくれないか?」
バージルの問い掛けにナーナは顔を伏せたまま首を横に振る。
「なら、何故泣いている?」
「……」
ナーナは何も答えない。
バージルは溜息をついた。
「俺には話せないような事があったのか?」
我ながら意地悪な言い方だとバージルは思う。
だがこう言う訊き方をしないとナーナは理由を言おうとはしないだろう。

はたしてナーナはどう答えるのか。

バージルはナーナの頭を撫でていた手を移動させ肩に置いた。
「!!」
グイッと肩を抱き寄せればナーナは驚いて顔を上げる。
「……狡いよ…先生……」
両手で涙を拭いながらナーナはバージルを見つめた。
「大人は狡い生き物だ」
バージルは優しく笑み、そしてナーナから瞳を逸らした。

「先生…ひとつだけ聞いても良いですか?」
「ああ、何だ?」
「先生は、何故私を探してくれたのですか?」
「……!」
予期せぬナーナの切り返しに、バージルは言葉を失う。
「やっぱりダンテ先生が気になるからですか?」
ナーナは少し悲しそうな表情をした。
「……っ」
バージルは言葉に詰まる。
確かにダンテを問い詰めようとして体育教官室に向かっていた。

ナーナを見かけたのは偶然だった。
泣いているナーナを。
その姿を見てしまった俺は……。

「俺は……」
バージルの次の言葉にナーナは息を呑んだ。

…………。

長い沈黙だった。

バージルは言葉にする事を迷っていた。
ただ『お前が心配だったから来た』と言えば良いだけなのに、何を俺は躊躇しているんだ?

バージルは頭を軽く左右に数回振る。
この分からない感情を一掃するかのように。

「俺は……」
バージルは再びナーナを見つめた。
「泣いているお前を偶然見かけて、何があったのか気になってここに来たのだ」
「先生……」
「さて、俺はお前の質問に答えた。次はお前が俺の質問に答える番だな」
バージルは柔らかい表情になる。
「先生やっぱり狡い」
そんなバージルにナーナは苦笑いするしかなく、涙はいつしか止まり、ナーナの顔には笑顔が浮かんでいた。

不知夜月