バージル編 Act.6
バージルとナーナは手を繋いでというよりは、バージルに引っ張られるような形で歩いていた。
仄かな外灯の明かりだけで歩いている道は、暗く足元がおぼつかない。
それでなくても足場が悪い道なのだが、バージルはそんなナーナのペースにはおかまないなしだ。
「先生、早いです!」
頑張ってバージルのペースに合わせようとするが、周りの景色など見る余裕もなかった。
足場の悪い道を歩く事10分。バージルの足が止まった。
「なんて、綺麗なの……」
眼下に広がる景色に、ナーナは息を呑んだ。まるで宝石箱をひっくり返したように色鮮やかな光が眩しい。
瞳をキラキラと輝かせながら景色を見つめているナーナの顔を、バージルはそっと見つめる。まだ涙の跡が残っているその横顔。
何故泣いていたのかははぐらかされてしまった。その事を強く知りたいとは思うが、ナーナが話したくない事を無理に訊き出す事も出来ない。
だが、ダンテ。奴絡みだとするとだいたい見当はつくがな……。
そんな事を考えていたら、ナーナがじっと見つめているのに気が付いた。
「先生どうしたのですか?私の顔に何かついてますか?」
覗き込むようにバージルを見つめているナーナの、その表情に内心ドキっとした。
「いや……」
ゆっくりとナーナから視線を逸らす。
「そうですか……?」
ナーナも首を傾けてバージルから視線を外した。
それからベンチに腰掛け、二人共何も言わずにただ景色を眺めていた。
クシュン!!
沈黙を破ったのはナーナのくしゃみだった。
「寒いのか?」
「少し……」
春とはいえ宵闇。まだ身体に感じる風はどこか冷たい。
その時、ナーナの身体にふわりと何かが掛けられた。
「あ……これ……」
「いいから掛けてろ。風邪を引かれたら困る」
ナーナに掛けられたのは青いコート。
今まで着ていたバージルの温もりに、身体が、胸がぽかぽかしてくる。
「先生は寒くないのですか?」
ふとナーナはバージルを見ると、
「大丈夫だ」
バージルはそう短く答えただけだった。が、
「……っ!」
ナーナは彼の姿に頬を赤く染める。
素肌にベストだけ。
意外。……こう言ったら失礼かもしれないけど、先生の二の腕が逞しい。
いつもは白衣を着ているからわからないけど、先生かなり鍛えてるんじゃないのかな?
「!!」
そんな事を想像してしまい慌てて首を横に振った。
「バージル先生……」
「何だ?」
「先生も一緒に入りませんか?」
ナーナはバージルにぴったりとくっつくと、青いコートをバージルに半分掛けた。
「!?」
予想外な行動に、バージルは驚いてナーナを見る。
「こうするともっと暖かいですよ」
屈託のない笑顔のナーナに、バージルも自然と優しい表情になった。
帰り道の車の中は静かだった。
ナーナはスゥスゥと寝息をたてて眠っている。
バージルのコートに包まれたままだ。
あの後もしばらく綺麗な景色を眺めてから、ドライブスルーでハンバーガーを買って遅めの夕食をとった。
それから他愛のない事を話していて今に至るのだが。
「無防備な奴だな……」
信号待ちの間そっとナーナの頬にそっと触れて見ると、吸い付くような柔らかい肌。
ナーナに元気になってもらいたくて、ドライブに誘った。
あそこは俺のお気に入りの場所。
独りで考えたい時、独りになりたい時、よく車を飛ばして行く。
誰にも教えた事のない大切な場所だった。
色とりどりのネオン街を抜けると、閑静な住宅街が広がっている。
バージルは白亜の大きな一軒の家の前で車を停めた。
「スゥスゥ……スゥスゥ……」
相変わらずナーナは幸せそうな顔で眠っている。
「お前は無防備すぎる。もっと警戒しろ……」
バージルは苦笑いをすると、ナーナの唇にそっと唇を重ねた。
「バージル先生。今日はありがとうございました」
車を降りたナーナは、バージルに向かって頭を下げる。
「少しは元気か出たか?」
「!?」
バージルの言葉にナーナの表情が驚きに変わる。
「ではまた明日」
バージルは片手を軽くあげると、車を静かに発車させた。
「先生が私を元気づける為に……?」
ドクン……と鼓動が跳ねる。
バージル先生、どうして……?
車のテールランプが見えなくなっても、ナーナは動けなかった。