ダンテ編 Act.7

次の日。昨日のバージルとのドライブは楽しかった。けれどもナーナは憂鬱だった。
昨日のあの出来事に、果たしていつもの様にダンテと接する事が出来るのだろうか。下手に意識してぎこちない態度をとってしまいそうで困っていた。
「皆、変だと思うよね」
特に昨日泣き顔を見られてしまったネロとも顔を合わせにくい。
教室の入口のドアの前で中に入る決心がつかず、ナーナは今日何回目かの溜息をついた。
「普通に、普通に」
深呼吸をし、ドアノブに手を掛ける。
後はドアノブを回して開けるだけだ。
「……いけ、ナーナ!!」
意を決して勢いよくドアノブを回し扉を開けた。
「!!」
目の前に現れたのは白い白衣。
次の瞬間、パフっとナーナは白衣の胸に顔を埋めていた。
甘いムスクの香りが鼻孔を掠める。
「朝から、大胆な奴だ」
テノールの声にハッとする。
「きゃあ!!」
自分の今の状態に気が付き慌てて身体を離した。
(ババババ……バ、バージル先生が何で私のクラスにいるの!? )
ナーナは後退る。
目の前にいるのは間違いなくバージル先生で、私は先生に抱きついてしまったらしく……。

――――穴があったら入りたいよ。

頬を赤く染めて俯くナーナを見つめながら、バージルは優しい表情になる。
「おはようナーナ」
「お、おはようございます……」
「よく眠れたか?」
「……はい」
昨日の事を思い出し更に頬を赤くするナーナ。
『ならばよかった。さあ早く教室に入りなさい』
「は……はい!」
優しさを帯びた瞳にどっと心拍数が上がる。ナーナは小走りでバージルの横を擦り抜けて行った。
鞄を放り投げ椅子に座る。

ドキドキ……ドキドキ……。

鼓動が早過ぎて胸が苦しい。
「おはようナーナちゃん」
声を掛けられビクッと顔を上げると、キリエが立っていた。
「あ……おはようキリエ」
「どうしたの?顔が赤いわよ?」
「え、あ……うん、走って来たからかな……」
ナーナは笑顔を作りキリエに答える。その後ろではネロが机に突っ伏して眠っていた。
「ねぇキリエ……」
そう言えば昨日ネロといる所をキリエは見ていたのだろうか?
ネロから何か聞いているかもしれない。
「どうしたのナーナちゃん?」
「あのね昨……」

キーンコーンカーンコーン……。

予鈴がナーナの言葉を遮った。
「ほらほら席に着いた着いた」
ダンテがいつもの様に教壇周りにいる生徒の頭を、出席簿でポカポカと叩いていく。
その後ろには呆れた様な表情のバージルがいた。

教室内はざわついていた。
教壇にはダンテとバージルが立っている。
Devil's学園きっての美形双子教師が、ふたりが一緒にいる所など滅多に見れる事はない。
ダンテは機嫌が悪そうに、バージルはいつも無表情だが、冷たい空気が辺りを漂っていた。
「今日は皆に重要な知らせがある。皆も知ってると思うが、副担任だったザビー先生が本国へ帰ってしまった。要は辞めたって事だ」
ダンテはバージルを見る。
「そこで、急遽バージル先生が3年1組の副担任に就任することになった」
ダンテは挨拶をする様バージルに目で促す。バージルはダンテを一瞥する。
二人の間には微妙な空気が漂っていた。
「縁あって副担任をする事になった。卒業までの一年、宜しく頼む」
バージルは軽く頭を下げた。
教室内はガヤガヤとまた騒がしくなる。
「静かに、静かに!朝のホームルームはこれで終わる」
ダンテは出席簿をパタンと閉じた。
「あとクラス委員長は、昼休み体育教官室まで来てくれ」
「……は、はい」
一瞬ナーナとダンテの視線が合うが、直ぐにそれは外された。
いつもなら名前で呼ぶのに、今日は『クラス委員長』と。
ダンテもやはり昨日の事を気にしているのか。その微妙な言い方にナーナは少し寂しい気持ちになった。
(変なの、私……)
沸き上がる気持ちを振り払う様に頭を横に振る。
(私はバージル先生が好き。あれがバージル先生とのキスだったら、こんな気持ちにはならないのかな……)
ハッと我にかえる。
「何考えてるのよ……」
気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
「ナーナちゃん、どうしたの?」
「えっ?……何でもない」
きっと挙動不審だったのだろう。
キリエが心配そうにナーナを覗き込んでいる。
「ナーナちゃん、1時間目移動教室だよ。急ごう」
「二人共早くしろよ!」
ネロが呼んでいる。
ナーナは慌てて授業の用意をすると、慌ただしく教室を出て行った。

不知夜月