ダンテ編 Act.8
昼休みになりナーナは体育教官室に向かっていた。足取りが重い。正直行きたくない部屋だ。
今はまだふたりきりになりたくない。
「気が重いな……」
ナーナは深い溜息をつきながら、体育教官室のドアをノックした。
「失礼します……」
中に入るとダンテの他に教師もいた。
何となくほっとしてしまう。
「少し小部屋借ります」
同僚に一言掛けてからダンテは小部屋に入って行く。ナーナは慌てて後を追った。
ドアを閉めてしまえば密室になる。
(外には他の先生方がいらっしゃるから大丈夫よね……)
やはり昨日の事を思い出さずにはいられない。
「何突っ立っているんだ?」
「いえ……まあ……」
入口に未だ突っ立っているナーナは、少し緊張している様に見えた。
(当たり前だ。昨日あんな事をしてしまったからな……)
思い出しては苦笑いしてみる。
「ナーナ頼む。とりあえず座ってくれ」
ダンテの言葉にコクンと頷いてナーナは椅子に座った。
「まず今日ここにナーナを呼んだのは」
いつもならナーナの隣に座るのだが、やはり昨日の事を意識しているのか、ダンテは向かい側に座った。
「昨日の事は謝る。気持ちが先走りしてナーナを傷付けてしまった。すまない」
立ち上がりテーブルの上に両手をつきダンテは頭を下げた。
「泣く程嫌われていたとは思わなかった……」
(えっ?何を先生は言ってるの!?)
「せ……ん……」
喉に纏わり付く言葉。口にだそうとしても声が、言葉が出ない。
(違う!泣いたのはダンテ先生が嫌いだからではなくて……)
「昨日の事は忘れてくれ。あれは夢だ」「違うの!!」
ナーナは椅子から立ち上がった。
「違うの先生!!」
「ナーナ?」
ダンテは顔を上げる。
そこには少し怒った様な表情でダンテを見つめるナーナがいた。
「私が泣いたのは、先生にキスされてビックリしたのと、雰囲気に流されそうになった自分が嫌だったから……」
「……!?……」
「色んな感情が押し寄せて来て……。決して先生が嫌いだからなんかじゃないから…」
「でもお前はバージルが好きなんだろう?」
『確かに私はバージル先生が好き。彼に恋をしていて、今もその気持ちに変わりないの。でも、私……」
真っ直ぐダンテを見つめる黒い瞳。
(一体ナーナは何を言おうとしているんだ?)
ダンテはゴクリと唾を飲み込んだ。
ナーナから、目が離せない。
二人は暫くの間見つめ合っていた。
キーンコーンカーンコーン……。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
(……ナーナが、俺を?)
その時、一つの陰が体育教官室から消えた。
「時間切れだな」
ダンテが溜息をつき視線を外す。
言いたい事はお互いまだ沢山あるのに。
もどかしい気持ちに支配され、その場から動けなかった。
「なあナーナ。次の時間サボるか?」
ダンテがポツリと呟く。
「えっ?」
「今更授業に戻っても身が入らないだろう?」
「それはそうだけど……先生は授業ないの?」
「俺は予定無し」
「でも変に思われないかな?昼休みにダンテ先生の所に来ているのはみんな知っているし、そのままサボりになると」
「なら、良い案があるぜ」
「え?」
ダンテは悪戯っ子の様に笑った。