ダンテ編 Act.9
「どうしてあなたたちの面倒を私が見なくてはならないの?」
トリッシュは深い溜息をついた。
ここは保健室。
「ナーナが具合が悪くなって5時間目は欠席って事になってるんで」
ダンテに悪びれた様子はない。
「ナーナちゃんはいいけど、あなたは戻らなくていいの?」
「5時間目は俺の自由時間だぜ?息抜きくらいさせてくれよ」
ダンテはそう言うとベットに横になり、数秒後にはスヤスヤと寝息が聞こえてきた。
「本当はダンテと何か話しがあったのでしょう?」
トリッシュは笑いながらマグカップをナーナに差し出す。
「ありがとうございます」
ナーナはペコり頭を下げてそれを受け取った。
ほんのりと湯気に乗って優しい香が鼻孔を擽る。嗅いでいるだけで、穏やかな気持ちになれた。
「カモミールのハーブティー。気持ちが落ち着くわよ」
トリッシュの言葉にナーナは驚いた表情をする。
「先生凄いですね。私の心を見透かしています」
「フフフ……ありがとう。これでも色んな生徒をカウンセリングしているから」
トリッシュは微笑んだ。
「貴女も悩んでいるなら相談して。恋愛でも進路でも何でも受付けるわよ。もちろん秘密厳守でね」
「……はい……」
トリッシュの言葉が温かい。胸にジーンと響く。不覚にも泣きそうになった。
Trrrr……、Trrrr……。
不意に保健室の内線が鳴り響いた。
「はいこちら保健室……」
トリッシュは受話器を上げる。
二言三言『はい』『いいえ』等と会話を交わすと受話器を乱暴に置く。
「ダンテ」
トリッシュが叫ぶ。
「フワアァァ……人がせっかくいい気持ちで寝付いたのに……」
ダンテは欠伸をしながら起き上がる。
「私来月のレクリエーションの打ち合わせに行くから、保健室空けるわ」
「はいはい」
「もし他の生徒がきたらよろしく。6時間目の授業が始まる時間までには戻るわ」
トリッシュは慌ただしく保健室を出て行った。
残された二人。
ナーナは飲みかけのハーブティーをテーブルに置いた。
「ナーナ、こっちに来いよ」
ダンテがベットの上から手招きしている。
『うん』と小さく返事をしてナーナはダンテの側に行き、ベットサイドの椅子に腰を下ろした。
「ねぇ先生」
「何だ?」
頭の後ろで手を組みベットに身体を預け、ダンテ天井を見つめている。
「私が具合悪いはずだけど、どうして先生がベットで眠っているの」
ナーナ呆れた様にダンテを見つめた。
「それもそうだ」
視線を動かしナーナを見つめるダンテの蒼氷の瞳はが笑っていた。
「一緒に寝るか?」
「……な……!」
ナーナの顔がみるみる赤くなる。
「俺は別に構わないぜ」
ふざけているのか本気なのか分からない。
「じゃあ、さっきの話しの続きでもするか?」
不意にダンテは真面目な表情になった。
「さっきのお前の台詞の続きを聞かせてくれないか?」
「さっきの……あ……!」
『確かに私はバージル先生に憧れてる。今もその気持ちに変わりないわ。でも、でも……私』
ナーナはそれを思い出し口ごもる。
「俺はきちんとお前の今の気持ちを聞きたい」
ダンテは身体を起こし、ナーナの頬に手を伸ばした。
「俺の気持ちは、一方通行だから……」
蒼氷の瞳が少し寂しげだった。
「……バージル先生が好きな気持ちは今も変わっていない。でも……」
ナーナは言葉を選びながら素直な気持ちを伝えようとしている。
「先生に『好きだ』って言われてキスされて……凄くびっくりした。私は今まで先生を一人の男の人として見た事がなかったから」
ナーナは頬に置かれたダンテの手に自分の手を重ねる。
「今日先生が朝のホームルームで私の事を『クラス委員長』って呼んだでしょう?あの時何故か名前を呼んでもらえなかった事が凄く悲しくて、その時自分の気持ちが少し分かったの」
ナーナは真っ直ぐにダンテを見つめ、
「ダンテ先生の事も、好きになりかけているみたい、なの……」
はにかむ。
「やっぱりお前は、可愛い奴だ」
ダンテは嬉しそうに笑うと、ナーナの唇を奪おうとした。
「先生……キスはまだダメ」
ダンテの唇をその手で塞ぐ。
頬をほんのり赤く染めダンテを見るナーナ。
「お前が可愛いんだからキスしたい。それじゃダメなのか?」
その手を掴む。
「ダメなものはダメ」
そんな顔で俺を見つめるなよ……反則だ。抑えがきかなくなるじゃねぇか。
「……好きになりかけているだけで、嫌いになるかもよ」
なんとか襲いくる衝動を自制し、いつものように軽く答える。
「いいね〜落としがいがあるってもんだ」
そしてダンテはニヤリと笑った。