バージル編 Act.7
朝、学校に出勤してきたバージルは、到着早々教頭クレドに呼ばれた。
「バージル先生。実は貴方にお願いがあります」
このDevil's学園の教頭クレドは、口髭を綺麗に切り揃えた、少し神経質そうな男だった。
「お願い……ですか」
バージルは背筋を伸ばす。
「実は、3年1組の事なんですが……」
「3年1組……」
ダンテのクラス事で話しとは?
面倒な事は御免だ。
「3年1組の副担任であったザビー先生が急に本国に帰国してしまいまして、今3年1組に副担任がいません。そこで急遽貴方に副担任をお願いしたいと思いまして」
「私が副担任?」
「はい。ダンテ先生のクラスは、正直担任を含め学園の問題児クラスです」
「まあ……確かに」
クレドの言う事が最もだとバージルは頷く。
「そこで貴方に副担任になって頂き、少しでも問題を無くして欲しいのです」
「……」
お願いとクレド教頭は言っているが、もう決定されている事だろう。
断れる訳がない。
ダンテの尻拭いをしなくてはならない立場というのが気に入らないが、3年1組にはナーナがいて、これからの学年行事を一緒に過ごせる。
レクリエーション、修学旅行、運動会、学園祭など。
これから卒業までクラスの副担任として過ごせる。
ダンテの奴を操ってしまえばいいのだ――――。
バージルは微かに笑う。
「バージル先生、如何でしょうか?」
クレドが再び問い掛ける。
「……微力を尽くします」
バージルは短く答えただけだった。
「お話しは以上でしょうか?」
「以上です。バージル先生。よろしく頼みますよ」
「では失礼します」
バージルが一礼して教頭室から出ようと扉に手を掛けたその時、欠伸をしながらダンテが入って来た。
ふたりの視線が交差するが、ふたりは同時に視線を逸らした。
ダンテにもこの日の朝、バージルが3年1組の副担任になる事が告げられたのだった。
ダンテが不機嫌になった事は言うまでもない。
教頭室を出て化学準備室に戻ったバージルは鍵を開けて中に入ろうとしたが、背後に人の気配を感じた。
「おはようございますバージル先生。クレド教頭は何のご用でしたか?」
気配もなく近付いてくるのはアーカムだ。
バージルはアーカムの質問には答えず、無言で準備室に入った。アーカムもそれに続き中に入る。
「そう言えばバージル先生。昨日はどうなさったのですか?」
「どうしたとは?」
「いえ……昨日は早く帰られた様で、珍しいと思いまして」
色違いの瞳が奇妙な光を宿している。
「回りくどい言い方は止めろ!!」
アーカムの質問にバージルは苛立ちを募らせる。アーカムは顔色ひとつ変えない。
「何が言いたい?」
「昨日はナーナと一緒だったのですよね?」
「体調が優れないと言うので送っただけだが」
バージルは無表情に答える。
(奴はどこまで知っている?)
「なら良いのですが……。教師がひとりの生徒に入れ込むのは、感心しませんな」
バージルの心を見透かした様にアーカムは不敵な笑みを浮かべた。
(胸糞悪い……!!)
バージルは乱暴に立ち上がるとアーカムを睨みつけ、
「まるで俺がナーナに好意を持っているという言い方だな!?」
声を荒げる。
だがアーカムは微動だにしない。
「それ以外の言葉に聞こえたのなら、そうなんでしょう」
平然と言ってのけるアーカム。
「お前が何を誤解しているのか分からないが、俺はひとりの生徒を特別視した事はない!」
吐き捨てる様にそう言うと、バージルは白衣を手に取り化学準備室を出て行った。
「クックックッ……実に分かりやすい人だ」
バーグの後姿を見やりながら、アーカムはニヤリと笑った。
「しかし、何とかしなければな」
アーカムは手にしている聖書から1枚の写真を取り出す。
「……目障りだな」
彼の表情が不意に変わる。まるでその写真の主を憎む様にな表情だった。