バージル編 Act.9

ナーナが俺に好意を持っている……。

偶然聞いてしまった二人の会話。
確かにバージルを見つめるナーナの視線は、他の女生徒とは違った。
ただそれは自分とダンテを重ねて見ているのではないかと。そう思っていた。
はたから見ていて、ナーナとダンテはかなり仲が良いように見える。
まるで付き合っているかの様で、事実『ふたりは付き合っているらしい』という噂が学園にはあるくらいだ。

―――だが実は自分を見ていて、自分に好意を持っていたのだ。

風がバージルの頬を撫でていく。
ナーナの事を考えると、胸がざわざわと騒ぎ出す。
(やはりアーカムに指摘された通りなのか?)
確かにバージルはナーナを気に入っている。他の女生徒にはない、そう自分を持っているのがナーナだ。
もちろんナーナは頭の回転も早く、何より彼女との会話のキャッチボールが面白かった。

ダンテとナーナが一緒にいる所を見かけると、訳もなく苛々して胸がざわつくことがある。
こんな気持ちは初めてだった。

何度考えても欲しい答えには辿り着かない。バージルは自分の気持ちがもどかしくて苛々してきた。
バージルは他人に興味がない。日常生活でも最低限しか他人と係わり合いをもたない。二親と死に別れ弟とも生き別れた時から、そうやって生きてきた。
だから誰かに好意を持つ事、誰かを好きになると言う事は自分には縁がないと思っていた。

『……教師がひとりの生徒に入れ込むのは、感心しませんな』
『それ以外の言葉に聞こえたのなら、そうなんでしょう』

アーカムとのやり取りが不意に頭の中を過ぎる。
「知らなかったのは、……いや知ろうとしなかったのは、俺だけか……」
バージルは自嘲気味に嗤った

授業中という事もあり、校内は静まり返っていた。
バージルはダンテに会う為に、再び体育教官室に向かっていた。
その表情はどこかすっきりしている。
「あら、バージル?」
屋上から戻る途中、バージルはトリッシュに呼び止められた。そして彼女の口からナーナが今保健室にいると言う事を知らされた。
「ナーナの、どこか具合がわるいのか?」
「そうみたいね。ただ……」
少し言いにくそうな表情をトリッシュはした。
「?」
「ダンテとナーナ。今保健室にふたりきりなのよね〜」
その言葉にバージルはクルリと進行方向を変えた。
規則を重んじるバージルなので、流石に廊下を走る事は出来ない。
それでもぎりぎりの早足だった。
「やっぱり双子ね。からかいがいがあるわ」
トリッシュは笑いを堪えるのに苦労していた。

保健室のドアの前で立ち止まり呼吸を整える。
「失礼します」
ノックをし一応礼儀正しく中に入るバージル。本当は怒鳴り込みたいのを抑えていた。
ダンテがひょいと顔を出す。
(焦っている様子はないな)
「ナーナが具合が悪いとトリッシュから聞いた」
ダンテの顔を見ると、ムカムカと腹が立ってくる。とても不愉快な気分だ。
ナーナは頭痛がするらしいと言うダンテの言葉に、バージルは『そうか』と短く答える。
お前の言葉には興味がないと言わんばかりの返事をした。

ナーナはベットに横になっていた。
心なしか顔色が悪く見える。
(やはり昨日連れ回したのが悪かったのか?)
「バージル先生すみません。その、ご迷惑をかけて……」
ナーナは申し訳なさそうな顔をしていた。その頬がほんのりと赤く染まっている事にバージルは気付く。
(熱でもあるのか?)
「少し顔が赤いな。熱は?」
身体が自然と動いていて、自分でも驚いていた。
(ナーナのおでこは温かいな)
ちらりとナーナを見つめると、更に顔が赤くなっていた。
(このままナーナの紅い唇に触れてみたら……っ!)
バージルはハッとする。
(俺は何を考えてるんだ!)
「少し、熱があるみたいだな……」
平静を装いながらナーナから離れた。

「ダンテはここにいるとナーナの睡眠の邪魔になりそうだ。だから俺と一緒に来てもらおう」
何かを決意したかのようなバージルの表情に、ダンテも言葉の意味を理解する。

ふたりはナーナに声をかけ、それから保健室から出て行った。

不知夜月