第14話 彼女から見た彼女
私はまたもナーナくんを見失ってしまった。ようやく見つけてあの時の返事をしようと決めていたのだが……。なかなか思い通りにいかないものだ。
「御剣検事はナーナちゃんとどのようなご関係なんですか?」
ティーカップを口に運びながら魔緒くんがじっと私を見つめてきた。
(ナーナくん、彼女に話していないのか?)
そんなことを考えながら私は答える。
ナーナくんは今年の4月まで6年間私の専任の事務官だったことを。だが魔緒くんの表情は納得していないように見えた。
「あのう……それだけ、ですか?」
「それだけとは?」
もっと違う他の言葉を彼女は望んでいたのだろう。だが私たちは検事と事務官という関係だけだ。今思い返せば6年間ずっと。
「……そうですか」
少し残念そうに魔緒くんは微笑んだ。
「ナーナちゃんがここに赴任してきてから今まで結構な数の人にアプローチされていますよ」
「……」
検事から検事局職員、果ては刑事まで。すごくモテますよ?と私を見る。
「ナーナちゃんって可愛いです。年下の同性の私から見ても魅力的です」
魔緒くんはティーカップをソーサーに置いた。
「いちど恋愛について聞いたことがあるのですけど、もうしばらく恋はしないって言ってましたよ」
「……そうなのか」
ここまで延ばし延ばしにしてしまったことを申し訳なく思う。あの時メイが言っていたことを今ようやく理解した。我ながら遅すぎる。だがきちんと伝えなければ私も彼女も次に進めない。
「でも私ずっと気になっていました。ナーナちゃん彼らを上手くあしらいながら、実は誰かを待っているんじゃないかって」
「……」
「その考えが正しいって今日確信しました」
「魔緒くん?」
「まさかその相手が御剣検事だとは驚きましたけど、なんとなく納得しました。6年間一緒に仕事をしていて何も思わないなんてあり得ないですよ」
「君はその、見ていたのか?」
「はい。もうバッチリ。ごちそうさまでした」
にっこりと笑う魔緒くん。私は恥ずかしくて、彼女から視線をそらした。
ようやく魔緒くんから解放された時には、既に陽は沈んでいた。
「19時か」
時計を確認して顔を上げた先に小さな喫茶店があった。なんとなくナーナくんがいるような気がして、私は喫茶店のドアを開けた。
「ナーナくん!」
彼女はカウンターに座り隣の男性と何やら親しそうに話している。
「御剣さん!?」
驚いた表現でこちらを見るナーナくん。見つかったことに安堵しながらも、私は彼女の隣にいた男性の姿に思わず叫んでいた。
「何故お前がここにいるのだッ!!! 」
「ああああッ!み、御剣ィィィィィィ!!」
全く、予期すらしていない、思いがけない男との突然の再会だった。
「異動してきてすぐこの喫茶店に通うようになってからほどなくして矢張さんに再会したんですよ」
「俺だって同じよ?御剣と一緒にいたはずなのに、ナーナちゃんがひとりでそこの検事局にいるなんてさあ〜もうビックリよ!!」
やけに親しそうな二人。なぜか心がモヤモヤするのは気のせいなのか。
「……」
「ナーナちゃんが来てもう1年は経つだろう?その間お前の話題は出てこないしよォ…お前らゼッタイ何かあったんだろう?」
妙に感の良い矢張に私は言葉を探す。なんでこいつはこう言う時には鋭いんだ。
「何度も言ってますけどただ異動しただけです。まあ検事局も色々とあるので仕方ないんですけどね」
ナーナくんが言葉の出ない私の代わりに矢張に答えてくれている。
「ふーん?」
「ところで矢張。貴様は何故ここにいるのだ!」
話題をそらそうと私は矢張を指差した。
「俺?そんなの決まってるだろう!魔弥ちゃんに会いに来てんだよ!」
矢張は自信満々に親指を立てウインクをする。
「魔弥ちゃんだと?」
出てきた女性の名前は前にヤツが追いかけていた女性の名前とは違っており。
「(この喫茶店のマスターの名前です。矢張さん今はマスターにぞっこんなんです)」
「(やっぱり……)」
ナーナくんがこっそり教えてくれる。矢張は相変わらずだと私は心の中でため息をついた。
「あら?見ない顔ね」
カランとドアベルが鳴りスーパーのレジ袋を抱えた女性が現れる。
「(ま、魔緒くん!?)」
驚いた。その女性は魔緒くんにそっくりなのだ。
「御剣さんこの方は波里検事のお姉さんですよ」
「そうなのか?」
ナーナくんの説明によると、魔緒くんより6才年上でこの喫茶店のマスターだという。
「魔弥ちゃんお帰り!!」
矢張が目をハートにして彼女に駆け寄るが、相手にされていないようだ。まあいつものことだが。
「ナーナちゃんそちらの方は?」
「あっ、紹介します」
「初めまして。私は検事の御剣怜侍と申します」
「貴方が御剣検事さん!お噂は魔緒から伺っております。私は波里魔弥と申します。魔緒の姉です」
ふたりのやり取りを何となく見ていたら、矢張さんが私に耳打ちしてきた。
「(大丈夫よナーナちゃん。御剣はああ見えて一途だからさ!)」
「(や、矢張さん!!)」
「(俺のこういうカンは当たるからさ、信じてちょーだい)」
親指を立ててウィンクする矢張さんに、不思議とモヤモヤが晴れていくような気がした。