第3話 忘れていた記憶
「お疲れ様でした御剣さん」
「ナーナくんか」
女の子たちがいなくなったのを見計らい御剣さんの所へ戻ると、彼はぐったりとしていた。馴れないことに相当神経を使ったのだろう。
(もう少し社交辞令とか女性のあしらいかたを身につければいいのに……)
そう考えて私は頭を軽く振った。
社交辞令に美辞麗句。女性のあしらいかたの上手い御剣さんは御剣さんじゃない!!
「どうしたのだナーナくん?挙動不審になっているが」
「な、何でもありません!さ、ささどうぞ。お口に合うか分かりませんけど」
努めて冷静に。必要になるとあらかじめ用意していた紅茶を紙コップに注ぎ手渡す。サーモボトルに淹れたから保温はばっちり。味はカップより劣ると思うけどね。
「ああ、すまない。用意がいいな」
そう言って御剣さんはフッと笑いそれを受け取ってくれた。
「それにしても、ずいぶん彼らと楽しそうに見えたが」
「うふふ。もしかして妬いてます?」
「違う!そのようなアレは困る」
「冗談ですよ」
ふふと笑ったら御剣さんの眉間のヒビが深くなった。
「父のことを訊かれて、少しだけ……」
「軽石局長か」
「御剣さんは私が検事局長の娘だってずっと前から知ってらしたのですよね?」
あの事件で私の秘密がバレてしまうまで、御剣さんは知らなふりをしてくれていたらしい。その理由を聞いて、昔の記憶を忘れていたことにショックを受けた。
「キミとは昔会ったことがある。それで覚えていた。ただそれだけだが」
「えええっ!?」
(御剣さんと私が会っている!?)
「なんだ覚えていないのか?」
「すみません……」
どうしてこんな大切なことを私は忘れているのだろうか?
「そうか……。キミの母上にも父が不在の時は世話になったな」
思い出して懐かしんでいるのか御剣さんは遠い目をしている。
(……思い出すのよ私!)
悔しくて必死に手繰り寄せた記憶の中に、小学生の男の子の姿がぼんやりと浮かび上がった。
半ズボンに赤いジャケット。胸元には黒いリボン。余り表情の変わらない大人びた少年。
「思い出した……」
兄弟のいなかった私はその少年をお兄ちゃんと呼んで慕っていた。私の初恋だ。
「『レイジおにいちゃん』……」
「懐かしいなその呼び名は」
目を細めて御剣さんは私を見つめる。
「『レイジおにいちゃん』と呼ばれるのが、妹が出来たみたいで嬉しかったな」
「っ!!」
優しい視線に堪えきれず私は俯いてしまった。
「ゴドー検事。あのふたりどうなんでしょうね?」
「嬢ちゃんが恋してるのは間違いない。このゴドーブレンド12号の爽やかな苦味のようにな」
(相変わらずワケが分からないな)
「だが御剣検事はどうなのだろうね?」
「彼は黙っていても女性が寄って来るタイプですが、鈍感なのか興味がないのか、浮わついた話がこれっぽっちもないんですよ」
「七瀬くんも厄介な男に恋をしたようだ」
ゴドー、亜内、牙琉の3人の検事は少し離れた所からナーナを憐れむように見つめていた。