第4話 月夜と桜と告白
やがて夕暮れと共に花見がお開きになる。予定があると牙琉検事がほとんどの事務官を連れて行ってしまい、ゴドー検事や亜内検事も予定があるとかで帰ってしまった。
「後片付けは毎年のことだけどね」
去年は冥ちゃん(狩魔検事)がいて、ふたりで後片付けをしたのを覚えている。
冥ちゃんは私の親友。伝説の検事狩魔豪の娘で弱冠13才でアメリカで検事になった。頭は良いし、美人だし、スタイル抜群だし、まさに才色兼備。狩魔豪検事は御剣さんの師であり、彼と冥ちゃんは兄妹に似た関係でもあるからとても仲良が良い。
そんなことを考えていたら肩をポンと叩かれた。
「ナーナくんこちらは完了した」
「ありがとうございます」
「そちらも手伝おう」
今年は御剣さんが手伝ってくれている。
さっきの『おにいちゃん』発言から少しだけ距離が縮まったと思うのは気のせいかな?
ふたりで集めたゴミを分別する。これが結構な手間だ。 プラスチック・缶・瓶・ガラス……などを細かく分別。
全ての作業を終えた時には、辺りは既に暗くなり丸い月が夜空を煌々と照らしていた。
「今日は満月なんですね」
満月の明るい月の光が中庭を照らしている。
「幻想的で綺麗……」
月明かりに照らされる薄桃色の花。漆黒の夜空にふわりと舞う可憐な花びらは何故か心を切なくさせた。
「こうやって見ると、昼とは違う趣があるのだな」
御剣さんはそう言って私の隣に並んだ。
言葉はなかった。時折すり抜けてゆく風に散る花びらの音だけが響いている。
「そう言えばこの桜の樹は」
「なんだい?」
「プロポーズをすると成功するというジンクスがあるそうです」
「いかにもなジンクスだ」
そんなことなど信じない、いやジンクスなどと言う非科学的なことは信じない。御剣さんはそう言う人だ。
「だが、キミもプロポーズとか言う年ごろになったんだな」
「物凄くジジくさいですよ御剣さん。私と4才しか違わないのに」
「そうだったか?私の中では幼い頃の、妹のイメージなんだろうな」
「……妹だってちゃんと成長していますよ?恋だってしていますよ!」
ショックだった。妹のようにしか見られていないことに。
「好きな人だっています!」
確かに幼い頃の記憶は忘れていた。でも私が検察事務官になったのは、御剣さんの側で仕事をしたいと思ったから。
課外授業の一貫で裁判の傍聴をした。その時の公判の担当検事が御剣さんで、冷静に理路整然と付け入る隙を与えずに有罪を勝ち取るその姿に私は惹かれた。
検察事務官になって運よく関東1区地方検事局に採用され、御剣さんの事務官となった。御剣さんは『他人に厳しく、自分にはもっと厳しく』そんなストイックな人だった。
「私は、御剣さんのことが好きです」
「!!」
御剣さんはフイと横を向いてしまった。眉間のシワがかなり深く刻まれている。物凄く困っているといった表情に胸がズキンと痛む。
「その、なんだ……私は……」
「分かってますよ御剣さん。なんだか桜に酔ったのかな、私……」
「……」
「担当検事に恋するなんて、事務官失格ですよね」
私は彼に背を向ける。零れる涙を見られたくなくて。
「ナーナくん……」
「すみませんが失礼します」
私は御剣さんのもとから走り去った。
誰もいないロッカールーム。私はロッカーを背に崩れるように床に座り込んだ。
「言っちゃった……」
困ったような表情でフイと横を向いた御剣さん。
「いっそはっきり断ってくれたら……」
その様子で私の気持ちは叶わないって分かったけど、きちんと言って欲しかった。