第6話 後悔そして追及
今思えばとても恥ずかしいことをしてしまった。誰が見ているか分からない中庭で、牙琉検事の胸で泣いてしまったのだ。 どうしようもなく苦しい私の心に牙琉検事が入り込んできて、ラクになりたくて甘えた。
(バカだな私……)
それが良くない方法だったと今は後悔しか浮かばない。
上級検事室1202号。扉の前で深呼吸をして気持ちを整え、ドアを開けた。
(大丈夫。普段通りに )
「……戻りました」
「ナーナくん。昼休みはどこに行っていた」
執務室に入り自分の席へ行こうとする私に開口一番かけられた言葉。
「中庭にいました。後から牙琉検事が来て一緒に昼休みを過ごしました」
牙琉検事とのことが後ろめたくて御剣さんの顔を見れなかった。
「キミは、牙琉検事と親しいのか?」
「!!」
「どうなのだ!答えたまえ!!」
初めて自分に向けられた威圧的な声色。法廷で容疑者を追い詰める時と同じ。ビクッとして顔を上げると、御剣さんは冷たい視線を向けていた。
(まさか、御剣さんは!!)
その瞬間私の中でひとつの答えが浮かんだ。それは考えたくない、最悪な答え。
「御剣さんは中庭にいたのですね」
「そうだ。キミと牙琉検事を見た」
「……」
あの場面を見られていたのだと。
『別に御剣さんと付き合っていないのだから、かまわないんじゃないの?』
『付き合ってなくても御剣さんに告白したんだよ!?返事がなくてもあれはいけないこと』
私の心の中でふたつの気持ちがせめぎ合う。でも、そんなことを考えてしまう自分が嫌だ。
「……昼休みの牙琉検事とのことは弁解しません」
「ならばキミのあの告白は何だったのだ?」
「っ!!」
私は本当に最低な女だ。御剣さんに好きだと告白したのにもかかわらず、私は牙琉検事の優しさに甘えてしまった。いちばん見られなくない御剣さんにその場面を見られ、彼を傷つけた。
私は、自分自身の過ちで壊してしまったのだ。
「御剣さん。信じてもらえないと思いますが、私の気持ちは今もあの告白が全てです」
「……」
「でも私の軽率な行動で、あなたを傷つけてしまいました。申し訳ございませんでした」
私は頭を深く下げた。収まっていた涙が頬を伝い落ち絨毯を濡らす。
「ナーナくん。顔を……」
『〜〜〜〜〜♪』
御剣さんが言いかけたその時、彼の携帯電話が鳴った。
「御剣だ」
御剣さんは通話ボタンを押し窓際へ歩いて行く。相手はおそらく糸鋸刑事で、その口調はいつもよりキツい。
(すみません御剣さん。私はもう……)
私は鞄を手に取ると、もう一度頭を下げ執務室を出た。
「電話が鳴っているぞ?」
「大丈夫です」
鞄の中で何度も着信音が流れている。画面を見なくてもわかるそれは、御剣さんしかいない。黙って1202号室を出て来てしまったから。
「それよりこれを持って来ました。お待たせして申し訳ありません」
御剣さんの執務室を出た後、私は検事局長室にいた。提出しなければならない書類を持って。
軽石検事局長に私は封書を差し出した。
「本当にいいのか?」
彼は少し驚いた表情をしている。
「いいも何も、あなたの命令です!!」
「あれ?そうだったかな?」
何でこの人が検事局長になれたんだ。我が父親ながら、彼の態度がイラつく。
「どういう心境の変化か分からないけど、まあ赴任は来週からだからきちんと御剣検事に引き継ぎするんだよ」
「……」
私はそれについて何も答えられなかった。
「それと、その顔をなんとかしなさい。何があったのかは知らないが、そんな泣き腫らした顔でいるのは社会人としていかがなものだろうか」
軽石検事局長はデスクから立ち上がり私の隣に立つ。
「ナーナ。私で相談にのれることならば、いつでも話してくれないか?検事局長ではなく父親として応えたいから」
「お父さん……」
「そう呼ばれるのは久しぶりだ」
父は私の頭を優しく撫でると、検事局長室を出て行った。