某月某日の青天の霹靂[壱]
「ナーナよ。入院中の馬之助の代わりに、本日より男塾男根寮の寮長代理を命じる!!」
教官の鉄カブトから塾長が呼んでいたと伝えられ、急ぎ塾長室に行った。
「えええ━━━━っ!?」
入室するなり開口一番言われたのは寮長代理への任命。驚きに言葉を無くしていると、塾長はさらに付け加えた。
「異義申し立ては一切受け付けぬ。以上!わしが男塾塾長江田島平八である!!」
某月某日の青天の霹靂。
男塾はもちろん、男塾男根寮も女人禁制である。だが特例をもって男塾に出入りしているナーナ。
「寮長代理って、はあ……」
塾内ならまあいいが、塾生が生活する寮の寮長代理とはさすがにやり過ぎだろう。
約百人の男子塾生とうら若き乙女がひとり。
しかもナーナ一号生の極々一部の塾生としか面識がなく、他の一号生達とは塾内で挨拶をするくらいだ。
今まではほとんど三号生達と行動をともにしていたのだから。
「何を盛大なため息をついておる。行くぞナーナ!」
「は、はいっ!!」
有無を言わせぬ塾長の迫力。ナーナは慌てて彼の背を追った。
男根寮に着くと食堂には桃や富樫ら一号生全員が揃っていた。
「貴様らも知っての通りだ。入院中の馬之助の代わりにナーナを寮長代理に任命した。期間は半年!!」
「しばらくの間よろしくお願いします」
驚きと戸惑いの入り交じったざわめきが湧き起こった。
「剣よ」
「押忍!」
剣と呼ばれた塾生が前に出る。額に巻かれた白いはちまきと太い眉。そして精悍な顔つきが印象的な塾生だ。
「一号生筆頭としてこやつを頼むぞ」
「押忍!了解であります!!」
人の良さそうな笑みを浮かべて桃はナーナを見る。
ナーナはペコリ頭を下げた。
彼となら面識があり、何度か言葉を交わした事がある。
「なおナーナに対して何事かを起こすのなら、この江田島が黙っとらん!分かったか貴様ら!!」
「「押忍!!」」
「わしが男塾塾長江田島平八である!!」
こうしてナーナの寮長代理の日々が始まった。
「こんな人間らしい料理は久しぶりだ」
「まともな食事だぞ!」
初日の夕食の時間。用意されていた料理に一号生達は涙を流さんばかりに喜んでいた。
「おかわりもありますから、どんどん食べて下さいね」
「押忍ごっつあんです!」
嬉しそうに、美味しそうに食事をしている皆を見ていると、こちらまで嬉しくなった。
ちなみに馬之助の作る料理はゲテモノ以上だそうで、カエル・ヘビ・ミミズ・カタツムリ等をそのまま食べさせられていたという。
さすが男塾と妙に納得してしまった。
そして寮長代理である間は美味しい食事を皆に提供しようとナーナは密かに思った。
「お手伝いをさせていただきます!」
食事が終わると数人の塾生がナーナの手伝いに来てくれる。
「助かります」
寮生は約百人。百人分の食器類を洗うのは大変だから彼らの手伝いは助かった。
田沢といった眼鏡の塾生は男塾一のインテリと呼ばれていると。
松尾と言った塾生はサ☆エさんみたいなヘアスタイルで、かなりこだわりがあるらしい。
そうやって塾生達とナーナは親しくなる為に、手伝い当番なるものができた。
買い物の荷物持ち、食事の準備、食器洗い。
日が経つにつれ一号生達は、すすんでナーナの手伝いをするようになった。
そして不思議なことにナーナが寮に来てからくたびれた木造の男根寮が、まるで命を吹き返したかのようにピカピカになっていた。
また寮の裏にいつの間にか色々な野菜や果物の畑が広がっている。
こんな短期間にどうして出来たんだと、塾生達はとても不思議がりナーナにどうしてだと訊ねたことがあった。
「この寮の木や土にはまだまだ力があります。だから少しだけ生きる力を出してもらっただけですよ」
「フッ不思議な人だナーナさんは」
「そうですかね?普通だと思いますけど」
ナーナはにっこりと笑い、そう答えたのだった。