某月某日の青天の霹靂[参]

そんなある日。
夕食を終えるといつものように一号生達は、就寝までの時間を思い思いに過ごしていた。

「あれナーナさんは?」
食堂を覗いた桃はナーナの姿がない事に気づき、食堂に残っていた仲間たちはにに訊ねるが皆一様に知らないと言う。
夕食の後片付けは既に終わっていた。
桃は寮から出て裏の畑に向かうが、そこにもナーナの姿はなかった。
「一体どこに行ったんだ」
月夜に照らされたナーナの畑は男塾の万年桜同様季節に関係なく、様々な作物が今が食べ頃だと実をつけている。
傷みの激しかった古い木造の男根寮。今はまるで新築のように息を吹き返していた。
ナーナが寮長代理になってから、明らかに寮内の雰囲気が変わった。とても良い方に。
「そういえばナーナさんは、邪鬼先輩達と行動していたんだよな」
驚邏大四凶殺で手当をしてくれたのがナーナ。女人禁制のはずの男塾に存在していた女性。それにとても驚いたのを覚えている。
王大人直伝の中国医術の腕は確かで、話しによると三号生達と行動を供にしているそれまで秘匿された存在だった。

ナーナが何者で、何故女人禁制の男塾にいるのか。

誰も口に出せない、訊いてはいけない暗黙の了解があるように桃は感じていた。
今はその存在が塾内では公にされているが、何も知らぬは一号生ばかりなんだと。
「……本当に不思議な人だ」
あの時思わずナーナを抱きしめてしまった。もし富樫や虎丸が来なければどうなっていたのだろうか。
驚邏大四凶殺でナーナと出会ってから、桃の中で気になる存在になっていた。
そして偶然とはいえ男根寮の寮長代理として赴任してきたナーナ。
これは好機だと桃は思った。
「……でもライバルは多そうだ」
見上げると雲一つない星空。桃は煌々と夜空を照らす月を見つめた。

「……」
久しぶりの天動宮。会議を終えたナーナは、死天王達が執務をする部屋の窓から夜空を見上げていた。
雲一つない星空。
煌々と夜空を照らす明月。
黙って寮を空けて来た事に少し罪悪感を感じる。桃にだけでも言っておけばよかったかもしれない。
(きっと心配しているよね……)
ナーナは彼等に気づかれないように小さくため息を漏らした。

「何を熱心に見ているんだ?」
スッと差し出されたティーカップ。
「ありがとうございますセンクウさん。月が綺麗だから、もっと近くで見たいなあと考えています」
「相変わらずだなナーナは。だがむやみやたらにその力を使うなよ」
彼らはナーナの特殊な力を知っている。

自然を友とする、恐ろしくも優しい力を……。

「はーい」
笑いながらナーナはセンクウからティーカップを受け取りその香りをかぐ。甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「優しい味ですね。癒されます」
口内に拡がるのは甘く優しい味。
「慣れない仕事でお疲れのようだからな。大変だろう一号生のお守りは」
センクウの自作のハーブ園で採れた特別ブレンドのハーブティ。
「皆さん率先して手伝ってくれますし、寮長代理は楽しいですよ」
「しかしこちらとしては、早く帰って来てもらいたいもんだ」
羅刹の言葉に三人は頷いた。
男根寮に慣れたと思っていてもやはり違うのを、此処に来るとまざまざと感じてしまう。
「で、これからどうするんだ?」
「支度とかあるので一度寮に帰ります」
明日から数日間彼等と極秘の任務が急遽決まったので、その打ち合わせにナーナは来ていたのだ。
「泊まっていけばいいものを。もう夜は遅いぜ」
卍丸の言うことはもっともだ。
でも留守にすると桃に断っておきたかった。今だって何も言わずに出て来たのだから……。
「お心遣いありがとうございます。でも今日は帰ります」

天動宮を出たナーナは影慶と一緒だった。
「まだお仕事残ってるのに、すみません」
「何をみずくさい事を言っているんだナーナ。お前を守るのは当然だろう」
夜道を女性一人で歩かせるのは危険だと、死天王の総意で選ばれたのが影慶だったのだ。
ふたりは他愛のない事を話しながら歩く。ほんの数ヶ月前には毎日彼等と顔を合わせていたのに、今はたまにである。
「こうして改めて話しをするのって、何だか変な感じです」
「そう言えばそうだな」
そうして色んな事を話しながら、男根寮に到着した。
既に就寝時間は過ぎており、とても静かだ。
「では後で。迎えに来るからな」
「はい。影慶さんありがとうございました」
お辞儀をすると、既に影慶の姿は既に消えていた。
「さて明日の朝食の用意をして、それから……ん?」
男根寮の中庭に人影があった。月明かりに照らされて佇んでいたのは。
「桃さん!?」
「ナーナさん!」
ナーナは驚き桃に駆け寄った。

不知夜月