3.それぞれの恋愛事情其ノ弐

「親父。ちょっと訊きたい事がある」
瑪羅門寺の闘いを終え、怪我の治療などにしばらく一号生は休みになり、獅子丸は父親桃太郎の所にいた。ただ前総理大臣として多忙なスケジュールをこなす父親と、ゆっくりと話す時間はほとんど無い。
獅子丸は大切な話しがあると頼み込み、ようやく作ってもらった時間。
ほんの数時間だったが、桃太郎は獅子丸の頼みをきいたのだ。

「改まって何だ獅子丸?」
男塾に入塾し様々な闘いを経験している息子は、精神的にも強くなり男らしさが滲んでいる。良い方向に成長しているなと、桃太郎は嬉しくなった。
「奈々から聞いたんだけどさ」
「奈々?ああ、豪毅のお嬢さんだな」
豪毅から二人が付き合い始めたと聞いていたので、その事について大した驚きはなかった。
「親父と奈々の母親が幼なじみで好き合ってたって聞いた」
「!?」
だが、獅子丸の口から出た言葉に桃太郎は驚く。
「何故二人が結ばれなかったか、訊かせて欲しい」
獅子丸の表情は真面目で、興味本位という様子ではなかった。
二人が付き合い始めたのを知った時から、必ず訊かれる事だと桃太郎には分かっていた。

だが……。

「獅子丸。確かに俺とナーナは、生まれる前からの幼なじみだった」
父親同士幼なじみで付き合いは深かった。
「えっ……」
「兄妹のように育ってきた二人だったから余りにも近すぎて、互いの気持ちに気づかなくて」
桃太郎はどこか遠くを見つめているように獅子丸は感じた。
記憶を辿っているのだろうか。
そんな父親の表情を見たのは、初めてだった。

「だがある事件で俺達は互いの気持ちに気づいたんだ。だがその時はもう手遅れだった」
あの日あの事件が起きなければ、きっと二人はずっと一緒にいただろう。
「手遅れ?」
「俺の慢心が引き起こしたのだが、それが原因で二人は引き離された」
「親父が引き起こしたって何をだ?」
獅子丸の知る父親は、清廉潔白。曲がった事が大嫌いな情に厚い男だ。

そんな父親が若い頃に一体何を……?

「…………」
だが桃太郎はその事については答えなかった。
「まあ言いたくねぇならしょうがないな」
父親の気持ちを察してか、獅子丸はそれ以上何も訊かなかった。
「……獅子丸」
「何だ?」
「俺が一つだけナーナの事で言えるのは、もう過去だという事」
「過去……ねぇ?」
「現在(いま)はお前を産んでくれたあいつがいて、この気持ちに変わりはない」
「ふーん」
そうは言われても、やっぱり胸がもやもやする。
「フッそれにしても、お前と豪毅のお嬢さんが付き合う日が来ようとは」
俺も年をとったもんだと桃太郎は苦笑いしていた。
自分とナーナは結ばれなかったが、二人ならばきっと━━━━。

「奈々さんを大切にしろよ」
あの娘は素直でとても良い子だと、桃太郎は温かい眼差しで獅子丸を見つめる。
「言われなくても分かってら」
照れたようにそっぽを向く獅子丸に、桃太郎は柔らかく笑んだ。
なんだか父親に体よくはぐらかされたような気がする。
自分が男塾に入塾して初めて父親と向き合う事が出来た。
永遠にその背を追いかけ続ける理想の男。

「いつか話してくれよな……」
部屋を出て行こうとする父親の背中に、そう呟く。
「いつか、な」
桃太郎はフッと笑うとそのまま部屋を後にした。


不知夜月