【23.不可欠の存在】

「ナーナ━━━━っ!!」
自分の発した声で仁は目を覚ました。
「……?……夢か……」
いつの間に眠ってしまったのだろうか。
仁はソファーから立ち上がり、窓際へ行く。
一面総ガラス張りの窓からは、この三島財閥本社ビルが建つオフィス街の夜景が見えた。
赤や青、色とりどりの光が夜を照らす。それはまるで地上に散りばめられた宝石のようで、ナーナの一番好きな景色だった。
「今どうしているナーナ?」
ナーナがラースによってさらわれ一八の手に堕ちた事を知らされてから、仁はナーナの夢を見るようになった。
夢の中のナーナは酷く怯え、涙を流しながら仁に謝っているのだ。
「ナーナの身に何かが起こっているとでもいうのか?」
ラースにレイプされたナーナがどれだけ傷ついているのかを仁は計り知る事が出来ない。
心の中に拡がる不安。
「ナーナ……」
すぐにでもナーナをこの腕に抱きしめたいと思うのだが、ナーナのいる場所は一般人も住んでいる、一等地にある高級マンションの最上階。
迂闊に手だしが出来ず、手詰まりな状態が続いていた。


それは突然だった。
「どうかしたの?」
定例の重役会議が終わり、執務室に戻って来た仁の顔色が良くない事にニーナは驚いた。
「いや……」
ニーナの問い掛けに短く答えた仁だったが、朝から感じていた身体の不快感は時間が経つにつれて増していた。
「仁?」
「っ!!」
急激に込み上げてくる吐き気。それに堪えきれずに仁は、側にあったごみ箱に嘔吐した。
だが上がってくるのは苦い胃液だけ。
余り食事を摂らない仁はナーナがさらわれて以来、殆ど食べ物を口にしていないのだ。
「仁!?」
「……大丈夫だ……。すぐに治まる」
ナーナがいなくなってから仁のこのような状態はよく見られた。
体調不良。この言葉一つでは片付けられない仁の状態。
早くナーナを連れ戻さないと仁が倒れてしまう。
それにしても、仁にとって七瀬ナーナという存在は、かけがえのない存在になっているようだ。
「不可欠の存在と言うのかしら?」
ひとりの女性が不可欠になれば、それを失った時には取り返しがつかなくなる。
仁の精神崩壊とデビル因子の台頭。
「どう考えても、明るい未来じゃなさそうね」
手詰まりなんて言ってる場合ではない段階にきている。
「早急に手を打たなければならないわ」
改めてそう思うニーナだったが事態は思わぬ方向へと動き出し、更なる時間を仁に与える事はなかった。



不知夜月