【27.傲りと罪】

手術中━━━━。

そう記された赤いランプがやけに眩しく感じる。
立ち入りを拒むように堅く閉じられた手術室への扉。
「ナーナ……」
その扉の前から仁は動かなかった。否、動けなかったのだ。
ようやくこの手に抱きしめたナーナの胸には深々とナイフが刺さっていた。
そこから溢れ出し伝い落ちてゆく赤い色。
仁の腕の中で徐々に失われてゆく体温。
ナーナの意識はなく、その命さえも危ない状態だった。
(もしナーナが助からなかったら、俺は……!!)
考えてはいけない事だが、考えざるを得ない。
そしてそれを思う度自分の中で何かが弾けそうになった。

━━━━認識の甘さと傲りが招いたその罪。

「仁……」
知らせを受け駆け付けたニーナは、仁に声を掛ける事ができなかった。


「お願いだナーナ。目を開けてくれ……」

集中治療室のベッドにナーナは寝かされていた。
様々な医療機具が身体のあちらこちらに繋がれている。
意識不明のままここ、三島財閥軍病院に搬送され緊急手術をうけたナーナ。
ナイフは心臓には達していなかった。ほんの数ミリの所で止まっていたが、出血が酷く一時心肺停止状態に陥っていた。
8時間に及ぶ大手術は成功した。だが彼女の意識だけは戻らないでいた。
人工呼吸器が辛うじてナーナの命を繋いでいる。
ガラス越しに聞こえる無機質な機械音だけが仁の耳に響いていた。


「仁、少し休んだら?」
容態が安定した為集中治療室からナーナは一般病棟にある特別室へと移された。
仁はあれから休むことなくナーナの傍にいた。
執務室を構え頭首としての仕事をしていたが、視察など移動を伴う仕事はニーナに任せていた。

いつナーナが目覚めてもいいように━━━━。

だが未だナーナが目覚める気配はなく、仁の気持ちばかりが焦っていた。

「ナーナ……」
手術の経過は良好で、本来ならとっくに意識が戻っているはずだと、医師も首を傾げていた。
「……目覚めたくないのかナーナ?」
こんなに手は温かく一見するとただ眠っているだけにしか見えない。
「……」
心と身体にうけた深い傷。ナーナが目覚めない理由は、自ら意識を鎖しているのではないか。

そう考えると今の状態がしっくりした。

「仁?」
仁のあまりの憔悴ぶりに見かねたニーナは書類を仁から取り上げた。
「ニーナ」
「貴方がそんな様子だと、ナーナが目覚めたらまた自分のせいだと思うわよ」
「……分かった。少し休む」
何かあったら遠慮なく起こしてくれと頼み、備え付けのベッドに向かった。
「しばらく立入禁止にしておくわね」
「そうだな。頼む」
仁はコートをベッドに脱ぎ捨てた。



不知夜月