酔ってる



「大丈夫かハニー」
「んん〜」


要領を得ない返答しかしない花厳の肩を抱きながらカラ松は花厳の家を目指す。
先程までチビ太の屋台で飲んでいたのだが、イベントという修羅場を乗り越えたせいか随分飲む花厳を止められなかったのである。案の定酔い潰れて彼女にしては珍しく今もふらふらと覚束ない足元を支えてやっている。


「ほら、もう家だぞ」
「はあい」


二階の自宅に行くまでに続く外階段の前まで来たが花厳の足が一段目を踏み外した。これでは危なすぎる。そう判断し少し屈んで細い肩と膝裏に腕を回し抱き上げるとわあ、と高い声を上げた。


「だっこ?おひめさまだっこだあ」
「よし、良い子だからこのままだぞ」
「んふふ、カラ松くん力もちだねえ」


舌ったらずに緩んだ顔で言われてぐっと込み上げてきたものを飲み込む。一段上がる度に白い脚が上機嫌に動く。アルコールと花厳の匂いがふわりと香った。普段兄弟をおぶる事もあるが、女の子って軽い。そして柔らかい。邪念しか生まれないのでとにかく真っ直ぐ階段を上がり玄関前に花厳を下ろした。バッグから取り出した鍵が何度も鍵穴を掠めるので代わりに差し込む。ドアを開けると靴を脱いだ花厳が倒れ込んだ。


「……大丈夫じゃないなハニー」


ぐったりと横たわる花厳を再び抱き上げると嬉しそうにはにかむ。俺の恋人が可愛い。そのまま唇を重ねると機嫌よく頬を擦り寄せてくる。


「ほっぺた熱いぞー、飲み過ぎたなあ」
「カラ松くんはつめたいねえ、きもちいい」
「危ないから風呂は明日にしような。パジャマどこだ?」
「そこ」


部屋に花厳を下ろして示された箪笥を開ける。取り出したパジャマを花厳に渡すといそいそと服に手をかけだしたので慌てて目を逸らした。すごく見たい。めちゃくちゃ見たいけれども色んなものを抑え切れなくなる。背後の衣擦れの音に日頃から鍛えられた想像力が本領を発揮しそうになって自分で自分の頬を叩く。


「どうしたのカラ松くん」
「えあっ……き、着替えたか。布団敷くぞ」
「あい」


弟のような返事をした花厳が畳にずりずりと横たわるものだから慌てて敷いた布団に寝かせた。さて、どうしようか。帰るか、泊まるか。こんなに酔った恋人を一人にするのは危ないだろうか。でももう寝そうだし、と考えていると革ジャンを引っ張られた。


「なにしてるの」
「いやな、どうしようかと」
「ねよ。いっしょにねましょ」
「ええっ」


どうぞ、と隣をぽんぽんと叩く花厳。えええ。そりゃあ寝たいけれど寝ていいのかええい寝てしまうか。あっさり誘惑に負けて革ジャンを脱ぎ電気を消して布団にダイブすると花厳が嬉しそうに抱き着いてきた。胸元に頭をぐりぐりと埋めてくる。ああ、可愛い。何だろうこの可愛い生き物は。


「子守歌でも歌おうか?ハニー」
「いいです」
「えっ」
「ん」


顔を上げた花厳の唇が顎に当たった。おわっ、と声に出すとそれを遮るようにキスをされた。自分からするのと花厳からされるのでは決定的に何かが違っている。ちゅ、ちゅ、と繰り返される可愛らしいバードキスに心臓がはねる。


「は、ハニー……花厳」
「ん……む」
「ふッ……!?」


下唇に触れたみずみずしくて柔らかいものに腰がびくっと動いてしまった。そのまま控えめに入ってきたのは舌だ。花厳からディープキスをされている。おわああ、なんて声にもならない。温かい舌を自分の舌で掬い上げると細腕が背中に回った。花厳のこめかみに指を滑らせて髪の毛を梳く。唇を通じて嬉しそうに笑んだのを感じた。
額を合わせて、角度を変えてじゃれあうように続けるキスが心地好くて気持ち良い。互いの呼吸と濡れた音が暗い室内に響いて、肌に触れる熱に目眩がしてくる。


「………ふ、花厳……」
「ん、ん……」
「……可愛い」
「ん、ふふ………カラ松くんはかっこいいねぇ……だいすき」


花厳にしかもたらされない胸がぎゅうっと切なくなる感覚。舌を深くまで差し込んで後頭部を手の平で包む。ああ、目の前にいる花厳が恋しい。


「……俺も、好きだ……花厳、愛してる」
「ふ……んん」


唇と舌から伝わる熱が血流に乗って腹の底を持ち上げる。襟足を撫でて花厳の脚を爪先でなぞる。柔らかいパジャマの感触にぞわりとした。




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