ご機嫌ななめ



「……ね、柄崎。社長めっっっっちゃ機嫌悪くない?」
「金主への返済が近ェンだよ。毎朝顔出さねえといけねぇんだ」
「へー……で?」
「頗る態度の悪い好色ババアなんだぜ。若い男囲いまくってる」
「ウワー。そっすか。あんなに機嫌悪そうな社長見たの中学の時以来かもしんない」
「柄崎!加納!テメーら何いつまでもボサッとしてやがる、とっとと回収に行け!」
「はいッ」
「え?やだ嘘置いてくなよ……!!」

こんなに機嫌の悪そうな社長とふたりきりとか無理だろ!そう小声で言うと加納に頑張れと言わんばかりに肩を叩かれた。頑張れるか!アホ!デスクに座っている社長をチラ見するとこちらを睨み付けてきた。私が何したって言うんだよ。とっっても機嫌が悪い社長に「コーヒー飲みますか」と尋ねれば無言。あーこれは注いでこいって事ね多分。給水室に行って自分の分も淹れる。お菓子は、あるな。チョコ。私のを分けてあげよう。

「はいどうぞ」

デスクに置くとぐいっとカップを煽る。カップの傍らにあったチョコを摘まむとじっとそれを見つめた。

「え、苦手でした?」
「来い」
「は?」
「早くしろ」

めちゃくちゃ怖い顔で言われるので指示されるがまま近づく。もっと、と指で手招きされてどんどん顔を近付ける。いや、近いんだけど。あの時に近い距離感に、腰が引けたけどもっと近付けの指示。
社長の眼鏡が当たりそうな程縮まった距離で、視界の隅っこで社長の手が動いたのが見えて反射的に目を瞑ると唇に固いものが押し当てられ、さらに押し込まれた。舌に甘いカカオの香り。目を開けるとすぐそこで社長が笑っていた。

「何かされると思った?」

「いらなかったんですか」、と問えば「池の鯉みてぇ」と返ってきた。機嫌良いじゃん何なの。




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