転入生だからと目をかけてもらえたり、それこそ持て囃されるのは皆花厳の素性を知らないからだった。花厳は分け隔てない。生者も霊も皆等しい。だからこそ、一般的には見えないであろうものと喋っている姿は異質に見えただろう。怖がる者、好奇心を抱く者、無関心な者。やや浮いた存在になりつつある花厳だったが、周囲は意外と優しかった。明らかに変わり者である花厳を誰も貶めたり虐めようとはしなかったからだ。以前の学校よりも、ここの生徒は優しかった。
霊は常に花厳の傍に有る存在だった。だからこそ、霊の常識は花厳の常識でもあった。

「何してるんです」

花厳が振り向くとフェンスの向こうに少年が一人、立っていた。横で話していた女の子が消えてしまって花厳は立ち上がる。そんなに広くはない足元の、爪先の少し先は何もない。風が花厳の髪を巻き上げると少年の顔が少し強張った。

「こっちに戻ってきて下さい」

少年の上履きの色は一年生のものだ。左腕の腕章に"生徒会"と書かれている。消えてしまった女の子は既に遠くに行ってしまったらしい。彼女は落ちる時はそんなに怖くなかった、と言っていたけれど少年の顔色を窺う限りではそうでもないのかもしれない。

「危ないんで、滑らないで下さいよ」

そう言う少年の顔が誰かと重なる。首を傾げながらフェンスを上り、一番上を乗り越えると少年の表情が和らいだ。あ、と花厳は声を漏らす。

「モブくん?」
「え?」

少年が周りを見回したが屋上には花厳と少年しかいないのはわかりきったことだった。

「モブ君の兄弟?」
「……弟です」
「似てるね!」

少年の顔が少し曇った。悪いことを言ってしまったのかの判断は花厳にはつかない。ガシャガシャと音を立てながらやっと屋上に降り立つと花厳の目線よりもほんの少し少年の方が高かった。

「兄さんの友達……ですか」
「うん」
「友達……」

品定めをするような目付きだという事も花厳にはわからない。

「何をやってたんです?危ないでしょう」
「おしゃべりしてた」

少年の切れ長の目が花厳の向こう、フェンスの更に先の何もない場所を見つめる。そして間を置いて、少年は俯いた。「大丈夫?」と尋ねても返事はない。

「………二度とこんなことしないで下さい。事故にでもあったら、学校が大変な事になる」
「あ、うん。ごめんね」
「とにかく無事ならいいです。帰宅部ですか?もう下校のはずですが」
「今日はモブくんと帰ろうと思って」
「何か企んでるんですか」
「モブ君の事心配なの?」

嫉妬や侮蔑や、言い様のない負の感情が時折少年の顔に影を作る。

「早く、帰って下さい。生徒会の権限を執行しますよ」
「うん!やっぱりモブ君に似てる」
「何、どこが」
「君も優しい人だね」

少年は俯いたまま何も言わずに踵を返す。花厳は遥か上空にお喋りしていた女の子を見つけ、大きく手を振った。




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