あめあめ



今回ばかりは予報が当たったらしい。出番であるはずの傘は学校で役目も果たせずじっとしている事だろう。小雨なのがまだ救いだな、と通学鞄を頭上に掲げてひた走る。行き交う同校の生徒の視線は別に気にしない事にした。学校につく頃には頭部は守れていても、通学鞄と肩はやっぱり濡れてしまっていて置いていたタオルの事を思い出し、それを貸してしまっていたことを更に思い出す。濡れたままでいるにはまだちょっと寒い季節らしい。身震いしていると机の上に紙袋が置かれた。

「何で濡れてるんだい」
「……は?」

私が濡れていることよりも何それ、と聞けないのは事の顛末を知っているからである。クラス中が若干静かになっている事を気にしていないのか、花沢は「金曜日はありがとう」、と前よりも随分落ち着いた顔で言う。頭は全然落ち着いてない。毛量がすごいと言いうより、頭部が伸びた人のようになっている花沢は何事もないように前の席に座った。普通にしすぎて何と言えばいいのか。絞り出した言葉は「傘を学校に置き忘れてた」だった。

「買えばいいのに」
「勿体ないから」
「君さ、人には風邪引くとか言っておきながら……タオルも入ってるから拭きなよ」

紙袋の中を確認すると綺麗に畳まれたジャージとタオルと、謎の包み。裏を見ると近くの洋菓子店のものだった。こういうところがモテるんだろうなこいつは。タオルはいつも使っているよりふかふかで、とても良い匂いがする。そうだ、花沢の匂いだ。人の家の匂いは慣れない。この柔軟剤、多分お高いやつを使っている。

「僕は君について誤解してたみたいだ」
「誤解?何の」
「考えを改める事にしたんだ。……多分、色々迷惑かけたと思う。ごめん。ありがとう」
「いつもの花沢はどうした」
「これが僕だよ。どうしようもない凡人だ」
「いや、まあ。良いんじゃない?慣れはしないけど取っ付きやすくはなった」
「ハハ、取っ付きにくかったかな」
「少なくとも私は好きじゃなかった」
「そうハッキリ言ってくれるだけでありがたいよ」

「自分の立場を弁えられる」、と花沢は背を向けた。いや前全然見えないんだけどな。




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