再就職



「花厳の入社を祝ってカンパーイ!よく来たなバカ!」
「カンパーイ、これも試験じゃないよね」
「おう」

二度目のお祝いである。一度目はお金を持たされて酒を飲むように勧められたのだ。「いや大金持ってるやつにお酒飲ますとかもうそれお金いらないって事だよね?絶対失くしちゃうけど?」「はいお前合格」「は?」そんなやり取りが行われての本当の入社祝いである。酒飲んでたら一発で失格だったと言われて何それ怖いと思った。その前にあった債務者からの取り立てなんかは試験じゃなかったのかと。こいつら怖いな本当。

「ま、俺はお前が失格になっても構わなかったけどな!うるせえし!」
「うっせ、お前が退社しろバカ」
「よくやったな花厳」
「おー加納は素直で可愛いねえ!」
「やめろバカお前は好みじゃない」
「ンだとこのやろ」

正面からビール瓶の口を向けられた。向かいに座った丑嶋の目が早くグラスを取れ、と促してくる。乾杯の音頭で空になっていたグラスを差し出すとそこにビールが注がれていく。

「あれだ。ヤクザの盃みたい」
「一緒にすンな。ヤクザは好かねえ」
「丑嶋は私に入社してほしくなかった?」
「あ?」
「そんな顔してる。結構顔に出るもんね丑嶋、ははーんさては私の事大好きだな……あっ!ちょ!もうこれむり!もういいって、あああ!」
「そうだな飲め」

ホップの表面張力なんて皆無で、だらだらと溢れだした泡を啜るが丑嶋の手は退かない。勿体ないだろ!啜らなきゃいけないのでほぼ泡しか飲めてない。おいしくない。

「ちょ、このスピード無理、酔う!酔う!」
「潰れたらその辺に置いていくからな」
「せめてタクシーには乗せて!」
「あと入社したからには社長と呼べ。敬語な」
「社長やめて下さいこのやろう」
「もっとだな?」
「あー!!」





「なーんで柄崎の方が潰れてるのかね〜」
「こいつ本当弱ぇな。加納、柄崎連れて帰れ」

丑嶋が加納に現金を渡してタクシーに柄崎を捩じ込んだ。そのまま出発してしまったタクシーにマジかよ私は、と思わざるを得ない。意識?あるよ?でも見てこの足取り。バンビだよバンビ。

「しゃちょ、私にもタクシー呼んで。あとお金ちょーだい」
「お前がめついな」
「ほめられてるぅ、ンヘへ」
「おい吐くなよ」

腕をがっちり掴まれてタクシーを止める丑嶋。はーごちそうさまでした、ありがとうなんて言ってるとタクシーに押し込まれ隣に丑嶋も乗り込む。家同じ方向なんだっけ、なんて思いながら意識がふわっと飛んだ。

タクシーの匂いって好きじゃないんだよね。なんだろ、変に清潔な匂いがしてさ。あーでも今はあれだね。なんか好きな感じの匂いする。え?アルコール臭い?誰が飲ませたと思ってんの。お前だろしゃちょー、うしじまー。へ〜お前のベッドきもちーねー。……あ?ベッド?

「何でベッド?うち布団しかないんだけど」
「ここ俺の家」
「へ〜」
「タクシーの中で熟睡すンな」

アルコールが抜けきらない頭で高めの天井を見つめる。結構良いとこすんでるなあ。とりあえず水をおくれ。ありがとう。

「さては丑嶋、最初から私を酔わせて連れ込むつもりだったな?丑嶋のエッチ〜、やらしい事されるんだ〜」
「ああ」
「いやそこはちゃんと否定してよ」
「そのつもりだった」

ギシッ、とベッドが沈む。は?眼鏡を外した丑嶋が覆い被さってきた。相変わらずでっかいな。天井のお洒落なライトと丑嶋の体の縁が重なって眩しくて目を細めると顔を寄せられた。ぎゅ、という擬音が正しいだろう。強く唇を押し付けられる。待って?何キスされてる?丑嶋そんなにアルコール臭くないんだけど、酔ってないの?ねえ。呼吸が苦しくて、ふ、と息を漏らすと歯を舌で割られた。マジか。入社してきたばっかりの社員に手ぇ出すとかとんでもない社長じゃん。ね、ちょっと。待って?苦しいんだけど?というか、あ、やだ。舌。ぞくぞくっとうなじに鳥肌が立つ。丑嶋の手がそれを撫でて私の後頭部を掴んだ。太い指の先が髪を分けて頭皮を擽ってくる。すごくやらしいその仕草に悲鳴が出たけど舌も唇も丑嶋の良いようにされている。いや、待って?待ってよ丑嶋。すごいドキドキしてるんだわ。死にそうだからさ。ふえ、と子供が嗚咽するような声が出た。シーツを掴んでいた丑嶋の手に縋るとやっと唇に少しだけ距離ができる。

「んえっ、死ぬ」
「このくらいで死なねーよ」

はあ、はあと零れる息を遮るように丑嶋の唇が何度も当たる。女を酔わせて襲うなんてこのやろ。丑嶋。

「あのさ丑嶋」
「あ?」
「このままさぁ、セックスするの怖いんだけどさ。心の準備とかあるからさぁ、待っててくれない?」
「俺に抱かれるのはいいのかよ」
「柄崎とか加納だったらマジで金蹴りしてる。でもさ、丑嶋じゃんか」
「何だ」
「多分さぁ?私丑嶋が好きなんだよね。でもさ、お酒飲んでなんとなくで丑嶋とヤったら多分なんか後でモヤモヤするんだよね」
「…………」
「処女だしなし崩しにセックスするには不相応な相手でしょ。待っててくれるんなら待っててよ」

後頭部を掴んでいた丑嶋の手が頬を滑り、額をぐりっと撫でてきた。何さ。そしてまた唇が落とされる。

「最初から酔った奴を襲おうとは思ってねーよ」
「……嘘つけ!これもう襲われてんじゃん!ファーストキス奪ってんじゃん!……え、やだ何その顔。怖いんだけど?」
「寝ろバカうるせえ」

バカって言った方がバカなんだからな!スケベ!そう言うとまたガブッと噛みつかれたのである。スケベ!




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