10_はじめての共闘
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「なまえ!!帰りが遅れるときは鴉を飛ばせ!心配するだろう!」
自宅に戻れば案の定、半々羽織の男がいた。
眉を釣り上げてガッシィイと私の肩を掴みながら、傍から聞けば至極真っ当なお説教を始める。
真っ当でないのは、ここは私が一人で暮らしている家の前であって、お説教している本人は家族でも恋仲でもない赤の他人どころか、付きまとい加害者であるということだ。
「やはりいらっしゃったのですね水柱様。離してください。即刻お帰り願います」
「そうだな、先におかえり、と言うべきだったな。なまえ、おかえり。愛している。お前は相変わらず甘えん坊だな」
「水柱様もお変わりないようで至極残念です。」
「敢えて名を呼ばないのは口付けてほしいときだったな。よし目を瞑れ」
「いぃやぁあああああ!!!おやめください!嫌です!心の底から嫌で……んむっ…!」
必死に逃げようとするが、巻きついてきた力強い腕に身体ごと引き寄せられる。
思わず眼をぎゅっと瞑って顔を背けたが、唇が温かいもので覆われる感触がした。
「冨岡ァ…てめえ何しやがる」
目を開けると、眼前には水柱様のお顔。
ただし私の口元を覆っているのは、師範の手のひらだった。
不死川邸に住まいを移すため、必要最低限の荷物だけでも運び出そうと思い帰宅したが、師範に同行してもらって正解だった。危機一髪とはこの事。
ただ、問題は水柱様が師範の手の甲にがっつりと口付けていることだ。師範の腕が粟立っている。
あれ、これまずいのでは、と思った刹那、いい加減離れろォ!ブチ殺すぞォオ!という怒号と共に、傷だらけの拳が水柱様の顔面に叩き込まれた。
「………不死川」
「なまえは俺の継子だァ。今後一切手ェ出すんじゃねェブチ殺すぞォ」
「初耳だ」
「さっき決めたんだよ。なまえの合意も得てんだブチ殺すぞォ」
「俺もなまえの合意を得た恋仲だ」
「何をしれっと嘘を仰っているのですか恋仲になった覚えなどありません!!」
真顔で鼻血を垂らす水柱様の姿は狂気そのものだなと思いながら、先程犠牲となった師範の手の甲をハンカチでゴシゴシと拭っていると、聞き捨てならない言葉が耳に入る。
「じっと見つめ合うだけでも相手の気持ちはわかる。目は心の窓なんだ。なまえの気持ちは俺にきちんと伝わっている」
「師範、家財道具一式は諦めます。いっそこの家ごと今すぐ焼き払いましょう。」
「落ち着けェなまえ 気持ちはわかるが目が据わってるぞォ」
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