11_好きなものが同じだと嬉しい
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「そもそも俺は不死川の継子になるなどと聞いていないぞ。何故亭主の了承を取らない」
「亭主じゃねェだろ。もういい黙ってろお前はァ。二度とその口開くな。」
恋仲だと言ったり亭主だと言ったり、脳味噌の代わりにおがくずでも詰まってんのか。
そして冨岡が何か言葉を発する度になまえの目が死んでいく。冨岡みてェな目しやがって。気に入らねェ。
二人の間に割って入り、なまえを背に隠せば、羽織の裾をきゅ、と掴まれた。
……コイツはコイツで無意識にやってんのか?
「継子になりたいなら俺の元へ来ればいい」
「弟子は取らないとご自身で仰っていたでしょう。」
「ならば撤回する。なまえ、俺の継子になれ。そして俺の子を産んでくれ」
「貴方継子を何だと思っているのですか!?兎に角、私は師範以外の方なんて考えられません!!絶っっっ対に水柱様の継子にはなりません!!」
「そうか…なまえは不死川が好きなのか。」
なんでそうなる。
冨岡の思考回路は心底意味不明だ。
だが、どうせ何を言っても理解しないやつだ。
いっそのことなまえが俺に惚れているのだと勘違いさせておけば、諦めるのか?
一芝居打とうかと迷いながら口を開きかけたが、先に冨岡が喋りだした。
「俺も不死川が好きだ。仲良くなりたいと思っている。なまえと好きなものが同じというのは嬉しいな。俺となまえなら夫婦になってもずっと仲良く暮らしていけるだろう」
「色々と突っ込みどころがありすぎて困惑してますがひとまず師範はものじゃありません今すぐ発言を撤回してください上官である水柱様とはいえ聞き捨てなりません」
「いやそこじゃねェだろォ」
いかん、変態と接する時間が長すぎてなまえまで壊れてきた。
冨岡の気色悪い発言も数が多すぎていちいち突っ込んでいられねェ。
今まで俺は、冨岡という男は周囲の人間を見下してスカした態度を取る気に喰わねぇ奴だと思っていた。
だが今日確信した。コイツは阿呆だ。ただの阿呆だ。底無しの阿呆だ。理解の範疇を超えた阿呆だ。
コイツにひと月もの間追い回され続けているなまえがおかしくなってくるのも理解できる。
一刻も早く阿呆となまえを引き離すのが先決だ。
「仕方ない、それでは俺も本日から不死川の屋敷で寝食を共にするとしよう。」
「誰が住まわすかァこのカスがァ!!」
渾身の力で振り上げた拳は油断しきった冨岡の鳩尾をしっかりと捉え、奴の身体は宙を舞った。
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