12_おはぎより甘い
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玄関の前で倒れ伏す水柱様を脇に避けようとすると、そんな汚ェモンに触れんじゃねえ、と叱られてしまった。
でもこのままだと家に入れないしな、と迷いつつ離れた瞬間、師範が水柱様の身体を粗雑に蹴り転がした。豪快。
足蹴にするのは良いんだ…なんてことは言えずに師範を自宅に招き入れる。
「こんなものしかお出しできなくてすみません。すぐに支度しますので。」
「いや、却って悪いな。」
荷造りの時間を少し貰うために、師範には居間でお茶を飲んで待っていてもらっている。
平隊士の私の家で柱が寛いでいるというのは不思議な気分だ。今日限りで出ていく予定の家だが、貴重な思い出が出来てしまって、少しばかり寂しい気持ちも湧いてきた。
その気持ちは玄関前にまだ転がっていたもう1人の柱の姿を見て綺麗さっぱり消し飛んだが。
「じゃあ行くかァ」
「あっ!自分で両方持てます、大丈夫です」
「うるせ」
大きい物は隠の方に後で運び出してもらうことにして、手提げ鞄と風呂敷包みにある程度の荷物を詰め込んできたが、手提げ鞄を師範にもぎ取られてしまった。
両手塞がってる状態であの阿呆に襲われでもしたら抵抗できんのかァ?と問われ、ぐうの音も出ない。
ありがとうございます、とお礼を言って歩き出したものの、弟子としてこれで良いのだろうかともやもやとした気持ちになった。
「それにしても格闘術ってもなぁ…お前、素手だとしても上官殴れねェだろ」
「うっ……正直、かなり抵抗があります」
「とりあえず拘束されたときに振り解く方法から始めるべきだろうなァ」
今日はお互いに任務もなく、特別急ぐ必要も無いため、のんびりと不死川邸に向かう。
明日から本格的に師範に稽古をつけて貰うことになるが、近接格闘から重点的に教えていただけるらしい。
まずあの阿呆の件を解決しないとお前の精神衛生に関わるだろォが、と言う師範は私に甘すぎないだろうか。いや、正直とても嬉しいけれども。
「あの阿呆はさっきみてェにいつも正面から突進してくるのか」
「いえ、一番多いのは…」
「なまえ、亭主を置いて何処へ行ぐふっ!」
私の背後に飛びかかってきた水柱様の顔面に、師範の裏拳がめり込んだと思われる音が響き渡った後、再び静寂が訪れる。
「……傾向は分かった。明日から対策始めっぞォ」
「流石です、師範」
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実弥さんを師範呼びしたいがために始めた連載だったりします。
冨岡さんは犠牲となったのだ
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