13_飴と鞭
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「オラァなまえ!!そんなんで柱殺せると思ってんのかァ!」
「いや殺す気は毛頭ないですう!」
「殺すつもりぐらいの気合でやれって言ってんだァ!!」
師範が放つ下段蹴りにギリギリ反応し、左脚で回し受けるが、次いで容赦なく拳が襲ってきている。
必死に逆足で繰り出した前蹴りはバッキバキの腹筋で受けられ、そのまま師範の拳が私の右頬に迫る。まずい。
右腕を絡めるように突き出してなんとか相殺させるが、蹴りの直後で身体のバランスが崩れる。
それを師範が見逃すはずもなく、右手で顎を捕らえられ、あっけなく終了。
「冨岡相手だったら接吻されてんぞ」
「絶対嫌です!!!」
「もう少し威力がありゃ前蹴りは入ってたな。悪くねェ。休憩だ。」
「ああ〜〜〜〜〜〜りがとうございますぅ…やっと休憩…」
今すぐこの場で地に倒れ伏してしまいたいが、庭に転がると師範はえらく怒るので、気合で縁側まで行きバタリと倒れ込む。
「なまえ、今は稽古だからいいが本当にやべェときは思いきり蹴り上げろォ。潰せェ。それが世のため人のためお前のためだ」
「恐ろしいことを淡々とおっしゃらないでください…」
近接格闘については、任務帰りに水柱様に襲われた場合を想定している。そのため、走り込み・打ち込み・掛かり稽古と一通り体力を消耗した後に近接格闘、という流れが定番となった。
拘束された際に抜け出す訓練は割りとあっさり会得できたので、今はそもそも捕まらないようにという段階の訓練に入っている。
何も水柱様をぶん殴るのが目的ではないので、往なす・躱すことを重点に置いてはいるが、やはりある程度攻撃も仕掛けていかないと限界があると実感してきた。
「やっぱなまえは足技向きだな。鬼との戦闘時も基本は刀だしなァ、蹴り中心に鍛えていくか」
屍のように転がる私の額に、濡らした手ぬぐいがぺちっと当てられた。
ひんやりとした感触と共に師範の優しさが沁みる。
稽古はそれはもう地獄のようにキツいが、やはりこの人はどこまでも優しい。
「さっきの前蹴りも速さはあったしなァ。草履じゃなく革靴の方が良いかもしれねェ。胡蝶ンとこの継子が履いてたような長えやつだと足首にも負担かからねェと思うが」
「じゃあ隊服自体を変えた方が良いですかね。縫製係の方に相談してみます。」
「おう、そうしろォ」
縫製係に鴉を飛ばしたところで師範から再開の声が掛かる。
私は内心げっそりしつつも、また厳しくも優しい訓練に舞い戻った。
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