16_不本意な日常
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「なまえ、その隊服は俺のために仕立てたのか。俺が胸派でも尻派でもなくフトモモ派だと知ってその隊服にしてくべぶッ」
「うちの継子に触んなっつってんだろォがァア!!!」
師範と合同任務に向かう道中、最早恒例となった”水柱様討伐”を済ませて鎹鴉の後を追う。
一緒にいるときは師範が早々に排除してくれるので、なかなか撃退訓練の成果を確かめることはできていない。
ただ、水柱様に声を掛けられる前に気配の察知ができるようになったことなど、僅かながら自身の成長を感じているのでそこは良しとしたい。
それにしても水柱様はきちんと任務をこなしているのだろうか。
この人にもっと仕事与えてくださいお館様…なんて私情を挟んだ進言など出来るはずもないな、と考えて、私は細く息を吐き出した。
「師範、ありがとうございます。毎度お手を煩わせてしまって申し訳ないです。」
「お前が悪い訳じゃねェだろォが」
「まあ、そう、なんでしょうか…」
「それに俺が追っ払ってやるって約束したしなァ。いちいち気にすんな。」
ぽす、と頭に乗せられた大きな手はいつも通り優しくて、心の靄をあっさり取り払ってくれる。
相変わらず師範は私に甘い。
そしてやはり師範に触れられるのは微塵も嫌じゃないなあと考えながら、肩を並べて目的地へ向かう。
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真正面から飛び込んでくる鬼を最小限の動作で躱し、背後を取る。
そのまま背中を踏みつけて頚を飛ばせば、鬼の身体の崩壊が始まった。何とも呆気ない。
体捌きが良くなったお陰で、無傷で任務を終えることが多くなってきた気がする。
鬼の消滅を見届け、血振りをして日輪刀を鞘に収めていると、師範が労いの言葉とともに肩を叩いてくれた。
「強くなったなァなまえ」
「本当ですか!?」
「まあ俺が鍛えてやってんだから当然だろ」
「ふふ、ですね。師範が私に割いてくださってる時間、無駄にしてなくて良かったです。」
討伐対象の鬼はそれなりに人を喰っていたようだが、私ひとりでも充分討伐可能と判断した師範は私の実戦の動きを見ていてくれたのだ。
師事を受ける人から褒めてもらい、自身でも成長を感じ、充足感で満たされる。
今夜は気持ちよく眠りにつけそうだな、と思ったところで鎹鴉がけたたましい声を上げた。
「救援要請ーッ!救援要請ーッ!風柱トォみょうじなまえ!北北西ノ山へ向カェェ!」
「今夜はしっかり働かねェといけないらしいなァ」
「そのようですね。参りましょう、師範」
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