風柱とストーカー撃退訓練


19_不本意な日常、再び
..........


「師範、只今帰りましたっ…!」

「うおッ!?」


帰りの報告と共に飛びついてきたなまえを咄嗟に抱きとめると、そのままぎゅうと首にしがみつかれた。
居間で胡座をかいて茶を啜っていた俺に跨って身体を密着させてくるなまえに目眩がする。

あの夜、初めてなまえを抱き締めてから、俺たちの距離感は少し近くなった。
師弟関係とは言え、ひとつ屋根の下で暮らす男女がやたらと触れ合うのもどうなのかとは思いつつ、なまえも嫌がっていない上に冨岡に濁らされた心が落ち着くのであれば…なんて自分に言い訳してきた。
だが、流石にこれは如何なものか。

天然が過ぎるのか、全く男として意識されていないのか、狙ってやっているのか(多分これはない)。
何れにしても嫁入り前の娘が何してやがる!と怒鳴りつけようと思ったが、なまえの腕が震えていることに気付いてしまってはそんな気も失せてしまう。


「師範!もう嫌です私!!なんで私あんな人に…!!やだ!!もうやだ…!」


何があった、なんて聞くまでもなく、”あんな人”が誰を指すのかは察しがついた。
泣いてこそいないものの、なまえがここまで取り乱すのも珍しい。
衣服や髪の乱れは見受けられなかったので最悪の事態は免れていると思われるが、今回は精神的打撃が大きかったのだろう。

頭をそっと撫でてやると、ますます抱き着く力が強まる。
コイツはコイツで困った弟子だ、と思いつつ子供をあやすように背中をぽんぽんと叩いてやりながら、胸板に押し付けられている感触から必死で意識を逸らした。
このクソ天然娘が。後で説教だ。


「あの阿呆が出やがったなァァ…。ったく、迎えに行きゃ良かったな。悪かった。」

「師範のせいではありませんッ…」


なまえが落ち着くまでそのままの態勢で髪を撫でていると、暫くして腕の力が弱まる。
少しだけ身体を離して頬を撫でてやれば、眉根を寄せて唇を固く結び、瞳を潤ませたなまえの顔が見えた。


「落ち着いたか?」

「…はい」

「安心しろォ。あの阿呆は今すぐ殺してくる」

「それはそれでダメです…!隊律違反です」

「あいつは人道に反してんだろォがァァ…」

「そうですけど!……師範の手を汚させるぐらいなら相討ち覚悟で私が殺ってきます」

「その目やめろお前。落ち着け俺が悪かった」


半分本気で冨岡を殺ろうと思っていたが、なまえの瞳が本格的に光を失いかけたので慌てて宥め、何があったのか話の続きを促した。



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